読書感想文「三代目司法書士乃事件簿 増補版」岸本 和平 (著)

 相続法・家族法のハウツー本ではない。
 実直な司法書士が、長いキャリアで思い出すあんなことこんなことを綴った経験譚だ。当然、本人が語るのは、自身が経験した個別の「事件」だ。なので、この一冊は直接、あなた自身のトラブルや悩みを解決したりしない。それは別な本を買えばいいのだ。
 本書が伝えるのは、プロとしての依頼者に向き合う姿勢だ。だが、それは決してカッコいい立派な話ではなく、むしろ地味なことなのだ。その一つ目は準備を怠らたらないこと。財産や権利に直結する仕事だ。手続きに向け迅速なアクションがとれるよう初動でダッシュできるかどうかは後々大きく関わってくる。そのための予備動作であり準備だ。勉強道具はその日の朝ではなく前の日の晩に用意しておくのだ。次は、プロに委ね託すこと。「事件」はときに紛争に至ってしまうこともあるし、込み入った法律関係に入ってしまうこともある。そのために必要なタイミングで迅速に「知り合い」の弁護士先生に委ねるのだ。決して、独りよがりではいけない。最後は、常に学び続けること。失敗や反省は日々の糧だ。そうした事柄から新たな気づきを得たり、学んだりもできる。だが、それ以上にむしろ、積極的にチームで学び会ったり、研鑽の場に出かけたりしながら自分自身のアップデートを図るのだ。
 今日も人知れず困っている人を助け安心を作っているプロがいる。そうした先達に敬意を払いたい。