読書感想文「農協の大罪」山下一仁 (著)

 「変わらないこと」の典型の話しだ。
 制度を改定するには,誰かに極端なババ掴みをさせてはいけない。ババ抜きのような疑心暗鬼状態のゲームだと誰もが次のアクションを避けるようになるからだ。敗戦後、占領政策のもと行われた改革のうち、農地改革や財閥解体は、地主や財閥家族が権利を失った。確かに新陳代謝ブルーオーシャンが開けたのは間違いない。だが、その様子を見知った者にとっては、改革とは恐ろしいものだ、と目に映ったに違いない。一歩、間違えれば、今度は自分が爪弾きにされかねないとの恐怖を埋め込まれた。権利を失う者には相当の補償をすべきだった。既得権者を引き摺り下ろして溜飲を下げて満足しちゃいけない。
 「農業を守る」ことの本質とは、「農地を守る」ことだとわかる。もしくは「農業生産」を守ることだ。決して「農家を守る」「農協を守る」ことが目的ではない。農家や農協は、経営体として適切に補償されればいいのだ。農地の保有は法人にして、その法人への権利割合を農家の家族個々に持たせると良いのだ。
 農業と農地、農協と農家を分けて考えるきっかけになる本だ。面倒だが、混ぜこぜにしてはいけない。「混ぜるな危険」問題であるし、食料安全保障の基礎となる問題だ。