ウチダカズヒロのブログ

最近は読書感想文を書いてます。オススメ本を教えてください。読書感想文のご依頼あれば、読みます(たぶん)。kazgeo@gmail.com まで。

読書感想文「にほんの建築家伊東豊雄・観察記」瀧口 範子 (著)

 得体の知れなさ、正体の捉えようのなさ、と言いたくなる「変化し続ける人・伊東豊雄」である。
 ホンモノの思索の人だ。根源まで考える。だから、スタイルや権威ではなく、モノゴトの本質に遡って考え続けることを流儀とし、その土地や施主との話し合いを重視する了見はずっと変わらない。
 読み飛ばせない発見があった。「70年代までは、建築を成り立たせる上位意識があった。だが、未来都市をつくろうとメタボリストたちが没頭した万博が、広告代理店に仕切られた単なるエンターテイメントであったことが露出して消失」したと著者の瀧口は言う。文章・絵画・写真・映像といったメディア情報による脳内再生表現に対し、本来、対峙するはずのリアルな空間が作り出す感情や誘発される意識といったものが重視されず、建築が面積掛ける高さ、築年数と設備、何なら家賃と最寄り駅からの距離という価値算出でしかなくなったまま、日本では「建築」が語られている、状況を指摘している。建築が、リベラルアーツに裏付けられた語るべきテーマでなく、不動産物件のハコの内側の情報でしかなくなっているのだ。
 もう一つは、伊東の建築観の柔軟さを物語る家具についての話しだ。「伊東が、明らかに建築家としてエゴを押し通した部分があるとすれば、それは家具だろう」「伊東は家具を手がけるデザイナーは『ある程度のセンスを持っている人ならば誰でもよかった』という。なぜなら、その家具はそのフロアのそこになくてはならないという芸術品ではなく、(略)プランの中で交換可能な、その程度の存在感を求められたに過ぎないからである」。あれほど空間をならしめるために建築と格闘しているかと思えば、家具でもってゆるゆると空間をつくるという程度にしかその建築空間には拘泥しないのだ。興味は人とカタチの関わりなのだろう。うーん、掴みどころがない。
 伊東の面白さを同時代性をもって伝える瀧口はほんとうにいい仕事をしたと思う。