19世紀末の汚く、貧しく、病気がちな日本人である。
我々は戸惑う。開国した明治に西欧列強から日本にやってきた異国人たちの目に映ったのは、清潔で、豊かで、頑健な日本人。東洋のユートピアではなかったのか。あれ、司馬遼太郎が言ってたことと違うぞ。3か月かけて東北、北海道を歩いたイザベラが残した記録は、東京などの都会の上っ面な日本だけではない。彼女の目に映ったのは、衣服は乏しく、食料は必ずしも満足ではなく、不衛生で、栄養の乏しさに加えて医療も行き届いていない寒村だ。
今日の日本社会と地続きなのは、むしろ戦後復興の日本の方だと実感する。DDTなど医薬品・感染症の撲滅、教育を含む社会福祉制度の充実、水道・下水道の普及など、制度や事業を含む社会基盤の整備があってこそ今日の社会となっているわけだ。そのことを見落としちゃいけないし、惚けていいわけじゃない。
イザベラは文化人類学者の参与観察のようにその場に身を置いて見聞する。まさに、宮本常一が得意とする手法であるし、そんな彼らが残したものは、他の学者から検証が難しいこともあって学問としての歴史においては重宝されにくい。しかしながら、権力側からの大文字の歴史ではなく、むしろ後世に残されたくない「常民」を描くこと、そして、文明や民族の衝突・搾取の現場としてのアイヌ・北海道の記録の貴重さをこの一冊で思い知る。
