ウチダカズヒロのブログ

最近は読書感想文を書いてます。オススメ本を教えてください。読書感想文のご依頼あれば、読みます(たぶん)。kazgeo@gmail.com まで。

読書感想文「モーダルな事象」奥泉 光 (著)

 狂言回し・桑潟幸一である。
 あまりにも滑稽である。冴えない大学助教授のクワコーこと桑潟幸一は、作者によってとことんおちょくられイジラレている。気の毒なほどに、おふざけパートを生きている。
 一方、シリアスなミステリーパートは、軍事体制下の戦禍が招いた不幸の数々が何十年を経ても暗く人生にのし掛かることを伝えている。長い歴史を踏まえたサスペンスでもある。
 大文字で書く国家や社会が、家庭や個人を摩滅する時代の断片がこんな小説を書かせるのだとしたら、やがて、阪神淡路大震災東日本大震災、コロナ禍、能登半島地震など、さまざまな方面から今後、フィクションが創作されるテーマとなるんだろうなと思う。
 厄災がエンタメ小説に昇華するには、時間の経過がどうしても求められるし、それを書ける新しい書き手も必要になる。体験を上回るクリエイティブで事実を乗り越え凌駕することで、やっと成立する。
 まだ、生乾きの歴史を経験したばかりの我々には起きた事象が皮膚にこびりついたままで、どうしようもない。過去を振り返るこの小説が、やがて来るニューカマーの登場を予感させてくれた。