「きっかけ」の可視化である。そんな一大事は起きない。モブの人生とは平坦であったとして、それでも冠婚葬祭、成長や老化はある。そこに出会いも別れもある。大げさなことではなくても、そうした出来事が人をつくる。とは言え、些細な出来事は流され、消えゆくものばかりであるからこそ、日々、せっせと写真を撮り、記憶を補う。
そうした誰にでも起きる日常を言語化してみせた短編集だ。「へー」や「ほー」が出てこない。これら数ページの短編が個別にネットにアップされたところで、アテンションを集めるだろうか。コタツ記事として拡散されるだろうか。そんなことはないだろう。ビックリさせたり、興奮させたり、揺さぶられるような「エモさ」が求められる時代だ。
だが、僕らは「ふーん」と掃いて捨てられるだけのありふれた日常を生きている。それでも、ここにある短編は、そんなちっぽけな人生を肯定してくれる。じゃあ、それでいいではないか。不安や疑心暗鬼にまみれ闇雲さに拘泥しながらも、エモさやワクワクすることを追い求めなくちゃならない「今」が本当にいいのか。
日々、前進できることの実感を感じられる、過ぎ去りし時間をスナップショットにとどめたような短編集だ。
