ウチダカズヒロのブログ

最近は読書感想文を書いてます。オススメ本を教えてください。読書感想文のご依頼あれば、読みます(たぶん)。kazgeo@gmail.com まで。

読書感想文「黒牢城」米澤 穂信 (著)

 男の孤独である。結局、大した動機もなく織田を離れたが故に、家中において語り合う者なき寂しさが際立つ。
 理に聡い者は、策を練る。策がハマり”勝つ“。そして功を為し、勢力となる。策とは、講じるときが面白い。状況を探り、関係を図り、必勝に持ち込む。パズルはわいわいと解くものではない。得意になればなるほど、周りはつまらない。
 狂人ではない村重が主人公だ。まともなのだ。立派な殿といえる。できる人なのだ。だが、聡いがゆえに、小賢しさの罠に嵌る。自身に見合うだけの大局から己を見なくてはならないのに、局面や場面で”勝つ“ことを繰り返す。”勝つ“ことは気持ちがいい。だが、大きくなった身の置き所がだんだんと狭くなる。やがて息苦しくなる。山椒魚だ。
 立場を得れば、己を虚しゅうして頭を垂れることが日常になるはずなのだ。家格も父祖伝来の土地も無く、人心を集まる通力も得ない中、任ずられて領主の地位を保つしかないのだ。そのためには、家中のケアが欠かせなかったはずであり、召し抱えてもらうことを望む者を大事にすることだったはずだ。器量人とは、そういうものだ。
 村重ができる男だった故に、孤独の罠に陥ったのであるし、みんな大好き、名探偵・官兵衛がトリックスターであるにせよ、武士の世の道理に生きている。通底するのは、転落し全てを失う村重の「見えてなさ」である。