民族英雄譚であり、民族建国譚の神話の解説である。神話であるが故に神が出てくる。神が言うことは、なかなかに理不尽、なんでやねんだったりする。そこは、所詮、神のお話しである。不合理なのだ。許してやってくれ。読者としては、はー、そーですかーと受け止めるしかない。
伝承されたのは、神々の世界の話しではなく、神の言葉に従ったリーダー、王、為政者つまるところ、人間社会の指導者側の話しだ。この神話を聞かされ、共有する大勢の側である被支配者層には、あんまり関係なさそうだけど、一般人のみんなには知っておくと、栄達の「ワンチャンあるかも」と思わせるのだろうか。まぁ、彼らの世間話の際の共通プロトコルではあるのだろう。どこまで役に立ったかはともかく。
架空の地ではなく、現実の土地とりわけ彼らより歴史の長いエジプトはとっくに別の神がいて王国が成立していることが、記述される。神話だけの架空の地名や現実にはない隣国じゃなく、ちょいちょいリアルが混じる。そうすることで「俺たちの歴史」として伝承しやすくなったため、いろいろと盛ったし、神から選ばれた者だけにはめっちゃ都合がいい話しが出てくるのだが、そんな御都合主義には触れてくれるな、ということだろう。
中東情勢を思う時、この神話を真顔で信じている人たちの世界なのか、と頭によぎるが、大抵の人は分別がついているのだ。神話はあくまで神話であり、日々の生活は科学と技術と金融に負っているのだ。
何より本書は、阿刀田高という、まるで親切な近所のオジさんによるリラックスしたユーモラスな解説が心地よい。
さまざまな場面で引用される原典の一つ。単語として聞いたことがある名前だらけだが、単語としてだけでなくストーリーとして知ることで世界の解像度が上がる。そのための古典への誘いである。地経学を語る際の補助線の一つとして、機内読書にオススメだ。
