読書感想文「化学の授業をはじめます。」ボニー・ガルマス (著), 鈴木 美朋 (翻訳)

 とびきりハードで不寛容で未成熟な若くリベラルなアメリカでのおとぎ話だ。
 女はいつも戦っている。負け戦であってもだ。だから、ページをめくるのは重くつらい。従順で健気で素直な「女の子」であることを当然に「定形」として求め・求められるという社会規範にボロボロになりながらも立ち向かうリケジョが主人公だからだ。規範からはみ出てしまうと、お転婆、じゃじゃ馬、さらには阿婆擦れと呼ばれてしまう。定形以外の個性は認められない。のび太を含め男子はそれぞれ個性ある3人なのに、女子はしずちゃん一人に典型として集約されている。クレヨンしんちゃんのノノちゃんと比べてみるとその異常さが際立つ。
 ケミストリーとは何か。揺るがしようの無い原理原則であり、モノゴトの理屈である。そして、物性が移ろうことを説明可能にし、明らかにしようとする一連の行為である。だからこそ、主人公は呼びかける「化学とは変化である」。理不尽さに服従するのではなく、化学を追うこととは、立ち向かって進むということであり、すなわち「勇気が変化の根っこになる」と説くのだ。
 時代は遅々としていてもどかしく、そう簡単には進まないかもしれない。それでも前進するのだ。キャルヴィンを巡る旅のように。