2023-01-01から1年間の記事一覧

読書感想文「陰陽師 烏天狗ノ巻」夢枕 獏 (著)

いつもながらの痛快・呪ファンタジーである。 なぜ、晴明は結果として人助けをするのか。頼まれごと、巡り合わせに仕方なく応じただけのことであり、本来、ゆるりゆるりと博雅と酒を呑んでいるだけなのだ。決して、自ら望んで火中の栗を拾に出かけいるわけで…

読書感想文「欧州戦争としてのウクライナ侵攻」鶴岡 路人 (著)

こんなにも単純でわかりやすい侵略行為の典型の事例に対し、当たり前の対抗措置を地域全体で当然にやれなくてどうする?という問いかけである。 あらためて、置かれている現実とは「抵抗しなければ祖国が無くなってしまう。将来が無くなってしまう」状態のこ…

読書感想文「喫茶おじさん」原田 ひ香 (著)

イーブンとは何か。イコールパートナーとは何か、である。 おじさんが拗(こじ)らせた話しである。あぁ、そうか、その類いか、そういう感じか。では、なぜ、拗(こじ)らせた後にしか、「話し」にならないのか。そういうもんだろ。でも、そこを面白がってい…

読書感想文「地図と拳」小川 哲 (著)

威と愚である。 作家にとって、満州とはよほど魅力的なテーマなのだとあらためて思い知らされる。確かに、ロマンと虚構だ。実態は怪しげで掴みようがなく、虚勢と思惑ばかりが充満している。刺激的であり創作意欲がわき、作家としては堪らないのだろう。 地…

読書感想文「実験の民主主義-トクヴィルの思想からデジタル、ファンダムへ」宇野 重規 (著), 若林 恵 (その他)

なぜ、ゴッホは郵便配達夫を描いたか。 仲良くしてくれたから。まぁ、そりゃそうだ。だが、近代における「郵便」という社会システムが持つ意味がある。郵便「制度」と言われるように、国家が個人をつなぐ装置である。ゴッホは孤独であっても、彼と知り合いや…

読書感想文「父のこと」吉田 健一 (著)

洒脱な大人ふたりの父子関係である。 大立て者の子どもなのだ。健一にとっては父・茂がポッと出てきたわけじゃない。吉田の家も大概だが、母方の牧野とは大久保利通の連なる閨閥に入るわけでこの運命から逃れようはない。当然、自分の立ち位置は周囲の様子か…

読書感想文「政治学者、PTA会長になる」岡田 憲治 (著)

オカケンとは友達になれるな。うん,きっと飲める。そう,義憤スイッチ。わかるよ,オカケン。四半世紀前、私はヤング・ファーザーでPTA役員だった。因習に囚われた世界だったけど、私はいらん業務はドンドン止めた。教頭と職員室で大喧嘩して、二人とも校長…

読書感想文「なぜジョブズは禅の生き方を選んだのか?」桑原 晃弥 (著), 藤原 東演 (著)

日々の積み重ねで濁りや澱が溜まるように、生きていく中で理性が曇り、感情が毒され、そして感性や直感の瑞々しさが失われてしまう。 常に本質を問い、鈍ってしまうことを嫌った男・ジョブズ。世界を変えられると真顔で思っていたのだから、世の中の複雑さを…

読書感想文「裁判官の爆笑お言葉集」長嶺 超輝 (著)

爆笑お言葉ではない。やむに止まれず発した魂の叫びだ。 裁判官、判事は、毎日,おかしなヤツに会う。最大限、誇張すればそうなる。少なくとも仕事に従事、いや、案件を抱えている間は、法を犯したおかしなヤツが出てきた事案を考える。美しい判決文が、極め…

読書感想文「大磯随想」吉田 茂 (著)

吉田茂が主義主張を語るときの正直さと洞察力が染みる一冊だ。 ソビエトと中共を嫌い、大使を務めたイギリスに同じ通商国家として信を置く。吉田茂を戦後のリスタートに宰相を任じた決断に、ただただ感謝したい。もっとも、もう吉田しかいなかったのかも知れ…

読書感想文「三つの石で地球がわかる 岩石がひもとくこの星のなりたち」藤岡 換太郎 (著)

アイソスタシーという地殻が氷山が海に浮かぶようにマントルの上に存在している図を説明したくて、この一冊はある。ここでいう海に相当するのがマントルであり、橄欖岩である。氷山の海面より下の部分は海洋地殻の玄武岩である。海面より上にあるのが大陸地…

読書感想文「歴史の話 日本史を問いなおす」鶴見俊輔 (著), 網野善彦 (著)

鶴見俊輔が没して8年である。日本の言論界は、鶴見俊輔が去ってホッとしているのがわかる。鶴見俊輔にバカにされるのではないか。根本から違うよ、と言われるのが怖かったのだ。そうした「わかっている人」にハナっからひっくり返されちゃうのは、堪えたは…

読書感想文「こちらあみ子」今村 夏子 (著)

テーマは空気だ。世間の空気そのものが主役なのだ。 そもそも周りに「わかってもらえる」とは何なのだろうか。こちらから見える世界とそこから働きかける自分がいるとき,はたらきかけた相手からの反応そのものを、こちらが期待していなかったとしたらどうな…

読書感想文「メメンとモリ」ヨシタケシンスケ (著)

この世は、生きている者のものである。 なので、うっすら感じている死んでしまうことやいなくなってしまうことは、普段は考えない。とは言え、当たり前に明日が来るわけではない。大小の違いはあれ、アクシデントはあるし、うっかりとしたミスもあるので、思…

読書感想文「成瀬は天下を取りにいく」宮島 未奈 (著)

頭のいい子たちのある種の物語だ。なかでも、私は島崎さんのファンである。 天才・成瀬の空気を読まないきっぷの良さに大抵の人はヤられるのだが、成瀬ウォッチャー・島崎さんの神経の太さも大概だ。常識人である島崎さんが一方的に成瀬に振り回されるわけで…

読書感想文「黄金比の縁」石田 夏穂 (著)

過去の「傷」に捉われたままの会社員の物語だ。本当は活躍できたいたはずなのだ、との思いで現実を受け入れられないでいる。世の中の理不尽を、急な雨と同様の不運と見ることができないので、ただただ納得がいかず怒りに捉われたままの人生を送っている。果…

読書感想文「文豪、社長になる」門井 慶喜 (著)

時運に恵まれた男の一生である。例えるなら、インターネット創世記にボータルサイトを立ち上げたり、専門のECサイトを開設するような慧眼であったり、最近だとショート動画をプロデュースするスタートアップなのかもしれない。 もちろん、才覚はあった。縁を…

読書感想文「インタビュー ザ・大関 運と人を味方につける」武田 葉月 (著)

プロスポーツは、短い現役生活を通して「人生」を見せてくれている。 相撲人生における運とは何か。持って生まれた体に恵まれること。考える能力を持ち合わせていること。努力することの価値に気づかしてもらえる環境にいること。その上での努力や才覚である…

読書感想文「図書館のお夜食」原田 ひ香 (著)

森瑤子がどれくらい知的でカッコイイ女のアイコンだったか,'80〜'90年代に10〜20代を過ごした者ならわかっているはずだ。とりわけ、当時の女子にとっては、憧れもしくは眩しかったに違いない。森瑤子を失った日本とは、どうやって贅沢をするといいのかわか…

読書感想文「中学生から知りたいウクライナのこと」小山哲 (著), 藤原辰史 (著)

起きている事象は単純でも、その事情は単純ではない。 ウクライナ史を語るとき、ロシア以上に、ポーランドやリトアニアを抜きにして語ることはできない。このことだけでも十分に厄介だ。カトリック、ユダヤ教、東方正教会の複数の宗教もある。さらに、コサッ…

読書感想文「極楽征夷大将軍」垣根 涼介 (著)

才気張ったマネジメントの敗北である。 マネジメントとは科学の対象である。経営科学という。では、先学に問う。足利尊氏におけるリーダーシップや、マネジメントの秀でたる面とは何か。ワンオンワンを熱心にやるか?傾聴を実践しているか?心理的安全性に気…

読書感想文「悩みの多い30歳へ。世界最高の人材たちと働きながら学んだ自分らしく成功する思考法」キム・ウンジュ (著), 藤田 麗子 (翻訳)

ウンジュは、困難が生じたとき、立ち止まらず飛び込む人だ。短く悩んで、素早く行動した。そうして(止むを得ず)転職を重ねた。そしてグローバル・カンパニーに職を得た。もちろん、ダメだったかもしれないが、挑戦した。それは、準備ができたから挑戦した…

読書感想文「どうする財源ーー貨幣論で読み解く税と財政の仕組み」中野 剛志 (著)

全ての経済学部の学生は必読だ。読後のレポートを書かない者は留年だ。貨幣とは、なぜ貨幣としての機能と役割を持っているのか?がテーマだ。もう一つ言っておこう。全経済学部の教授陣は国際的な学会で通説となっているこの本の論説へ有効な反論を書けない…

読書感想文「機嫌のデザイン まわりに左右されないシンプルな考え方」秋田 道夫 (著)

自分を世の中にどう置くか。 その置き方を考えるとき、自分自身を観察することになる。表情であったり、服装であったり、身のこなし方であったり、所作だったり。そのとき自分の軸がたいせつになるが、実はその軸も周りとの関係やその時々で、案外、位置は変…

読書感想文「お金の引力」末岡由紀 (著)

「お金持ちになりたいかー?!」「イェー!!」 「お金持ちになって,やりたいことは、順番に言えるかー?!」「エッ?……」 「お金持ちになって、やりたいことに、何にどれだけ掛かるかの金額を見積もっているかー?!」「いや、その……」 「お金持ちになるた…

読書感想文「六角精児の無理しない生き方」六角精児 (著)

ちょっとメンドくさい人が、自身のメンドくささを自覚し受け入れた人生だ。 なので、実はタイトルはちょっと違う。ずっと無理をしてきたのだ。ただ、無理を続けることができず、無理をすることにギブアップしたのだ。負けを認めて負けを受け入れたのだ。「無…

読書感想文「名著の話 芭蕉も僕も盛っている」伊集院 光 (著)

「原典って、実はこうだぜ」のアフタートークである。 もちろん本番は人気テレビ番組「100分de名著」だ。本番で言ったことのおさらいも兼ねて深掘りする。「奥の細道」は、「奥の細道」というフィクションである。「奥の細道」ワールドというものを芭蕉は構…

読書感想文「法の近代 権力と暴力をわかつもの」嘉戸 一将 (著)

法律を法律たらしめる理屈に悩んだ近代であり、それは代表制をならしめるフィクションの歴史である。 公権力の振る舞いは、役割としての振る舞いである。それは、国民とて同じだ。国民は理性的に法を定め、法により公権力に従う。あくまで、決め事として公権…

読書感想文「20字に削ぎ落とせ ワンビッグメッセージで相手を動かす」リップシャッツ信元夏代 (著)

人生における出会いとチャンスの獲得とは、言ってしまえば、その時々の場面での「プレゼン」である。 「喋りのできるヤツ」がいる。調子がいいだけじゃないの?懐に飛び込んで、懐いて上手くやってるだけじゃないの?と「そいつは偶然のラッキーを手にしただ…

読書感想文「千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話」済東鉄腸 (著)

千葉の子ども部屋に引きこもりながらも、世界(世の中の意味ではなく、ホントにワールドワイド)につながっちゃったトゥルーストーリーだ。 蛮勇を持って突き進む中世の騎士ドンキホーテ様さながらのおかしみが堪らない。本人もわかっているのだ。痛い自意識…