読書感想文「インタビュー ザ・大関 運と人を味方につける」武田 葉月 (著)

 プロスポーツは、短い現役生活を通して「人生」を見せてくれている。
 相撲人生における運とは何か。持って生まれた体に恵まれること。考える能力を持ち合わせていること。努力することの価値に気づかしてもらえる環境にいること。その上での努力や才覚である。この場合、運とは条件と言っていい。スタート地点であり、経由地だ。初期値に恵まれず、条件が悪ければ、場所を変えることだ。当然、ケガやトラブルとどう向き合うか。どんな創意工夫を考えるかも現役生活=人生においては大事な視点だ。
 また、画面や紙面を通じてでしかわからない彼らを,僕らは勝手に印象を持ち評価したりするわけだが、内心とはわからないものだ。闘争心剥き出しであっても実は不安だったり、淡々と取り組み前の仕切りを重ねていてもメチャクチャに燃えていたりする。そのことは、やがて語られることでやっとわかるのだ。つまり、日ごろ、評価を受けて腐ったり嘆いたりしても、評価者の視点なんて、評価される側のことをそんなにわかってくれていないもんだよ、ということを教えてくれている。
 そうすると、地位とは何か。「地位に就こうとする無邪気さ」と「その立場にいるための心技体の保ち方」のコントラストが興味深い。それは当然に「その立場にいることが相応しい」ことと「自ら手を伸ばして地位を獲得しよう」とすることの違いに近い。さらに言えば、「地位が人をつくる」というが、それは分不相応な地位であっても、そこから努力を重ねた人のことをいうのであって、地位に就けたからと言って勝手に強くなるわけでも、立派になるわけでも、能力アップするわけでもない。その一方、天才として強さと勢いでスピード出世することが果たして大団円を迎えるのかも割と怪しいものだ。
 プロフェッショナルとしてキャリアを継続することとは何か。大相撲で言えば、序の口、序二段、三段目、幕下、十両、幕内、三役、大関と、階級ごとに変わるステージごとに、生き方の考えややり方を見直し、変えることだろう。力士生活も短いが、人生も案外短い。