読書感想文「鬼の筆 戦後最大の脚本家・橋本忍の栄光と挫折」春日 太一 (著)

 自由を求めた脚本家の人生だ。どこにも媚びず、へつらわず、自立した生き方だ。
 それは、プロとしてどう生きるか?という問いでもある。脚本家・橋本忍は軽々と、シナリオを書く際の決め手の『三カ条』があると答える。「いくら稼げるか」「面白いかどうか」「名声が得られるか」。
 俗っぽいのではない。俗だ。だが、時代状況として伸びる一方の産業としてのエンタメ・映画をただただ好きなだけの者が、才能を見出されて、そこに人生に賭ける際、小さくまとまっていてどうする?との問いだ。それは若造が「成功してやる!」とのし上がろうとする個人的な動機だけでなく、実はシナリオライターとしての社会的地位の問題でもある。
 だからこそ、先ほどの三カ条を見返して欲しい。自分が「好きかどうか」は入っていない。あくまで、自分なりに客観的にみて、カネと価値と評判を測っているのだ。頑なになってはいけない。自身のこだわりが気になるようなら、助言を求めるべきだろう。
 そして、一人だろうが、組織だろうが、「気迫」が求められるということだ。緩むと間違う。プロの矜持を知る一冊だ。