2019-01-01から1年間の記事一覧
歴史学や考古学からの研究が進み,一般の興味関心も広がっているアイヌについて満遍なく最新の知見がわかる一冊。 時代や場所によっていろんなアイヌがいた。もちろん,悪人も権力者もいた。アイヌとは決して一様ではないことが共有されていなかったのは,そ…
実は多くの著書を持つひふみん。その最新刊。最近,ローマ教皇が来日した際,東京ドームに出向く敬虔なクリスチャン,なんたって聖シルベストロ教皇騎士団勲章を持ってるくらいだからね。 そんなひふみんが,宗教の要素をなるべく抜いて,考えや実践を中心に…
立ち食いそばチェーン・富士そば経営者・丹道夫の立志伝である。 仕事は人がする。その仕事の目標を達成するために組織を動かしていくことを経営とするならば,丹は,どう経営してきたか。その経営観である。リーダー・マネジャーからの権限委譲が重要と,経…
小松帯刀である。つくづく,小松である。19世紀,その地政学的位置のため,自ずと開けてしまった薩摩藩が,「国家」を意識したとき,旧弊を打破することを決断。その薩摩を率い,先導したのは,のちに英雄視される面々ではなく,小松帯刀であったのだな,と…
敗戦後,社会体制はどう動くことになるのか。領土や権益を巡って,開戦した後,終戦は互いの停戦合意に調印した後,決着する。この当たり前の視点から「アフター・白村江の戦い」の検証を試みた意欲作である。 負けたのは,倭国だ。当然,特使もやってくるし…
15年前,斎藤孝はイラだっている。前年の2003年,大手金融機関に公的資金が注入される。2004年は,鳥インフルエンザが発生したり,新潟県中越地震に加え,豪雨災害が続いたりとザワザワしていたそんな世相である。政治家の年金未納問題が発覚したり,プロ野…
期待せずに手に取った本がとんでもなく面白いことがある。これはそんな一冊。老人が過去を振り返ることが中心だから、どうしたって昔話になるし,懐古趣味っぽくなる。ただ,それだけじゃないんだ。抜群に面白い。笑いという人間だけが持ち得ている特殊な情…
仏教である。仏教の教えとともに暮らしてきた二人が対談と往復書簡形式で,いくつもテーマで己の知識と想いをぶつけ合う。学者でもあり僧侶でもある釈が真正面から答えれば,幼い頃からお仏壇と大家族の中から自分の視点を築いてきた哲夫がモノゴトを押した…
「ゴミは人々の生活の縮図」。普段,考えを巡らすことの外に置いておきながらも,日常生活上,切り離せないゴミ。哲学者だろうが,大企業経営者だろうか,デイトレーダーだろうが,アイドルだろうが,ゴミを出さないことには生活が成り立たない。そんな当た…
今の落語シーンを語る双璧といえば,堀井憲一郎と広瀬和生で決まりだろう。その我らがホリケンこと,堀井憲一郎がずんずん書いた一冊。そのホリケンが戸惑っている。「落語に行くなら,どういう準備をすればいいでしょうか」と学生に何度も聞かれたからだ。…
今年2019年は,ラグビーワールドカップ日本大会の年である。共著もある京都大・山中伸弥教授が,平尾誠二とこの大会を見たかったと嘆いていたのが印象的だった。その平尾誠二の本。現在,氏の著書それぞれが入手困難となっているのだが,今回,初めて著書を…
「傑作を通じて,才能を世に知らしめる」ことを待ってもらうことが許された男・近松半二その人の物語である。中年になっても阿呆ぽんと呼ばれつつ,そうして待ったもらえた時間の末に,因果の渦の底に身を置き,立体的な関わりが筆を走らせた。 治蔵や正三が…
2019年,最もホットな一冊だ。抜群に面白い本なのだが,何が面白いのか。愛すべきキャラクターの主人公・カラマが面白いのか。カラマ大好きの著者である突撃姉さん・小川さやかが面白いのか,シェアリング経済と人が次々と入れ替わりながらも維持される香港…
最新の歴史学の研究成果を踏まえ,歴史小説をアップデートさせようとする意欲的な試みである。6人の今,注目されるべき小説家が,下克上・軍師,合戦の作法,海賊,戦国大名と家臣,宗教・文化,武将の死に様のテーマに挑み,小説の面白さが解説・ブックガ…
2019年版の最新のマリ伝である。当然,いまのマリの視点から人生を省みている。息子デルスがハワイ大学を卒業する,この区切りのついたタイミングでの一冊と言えば,通底するものが伝わるだろうか。生業としてではなく,食いつなぐためにサバイバルしてきた…
世に響いた「賤が岳の七本槍」それぞれを描く短編集。同級生,同期入社組の関係である。いつまでも,当時の話しで盛り上がれる互いの関係を持ちながらも,三成の死をそれぞれが解きほぐす。七本槍と三成と経済の組み合わせを一冊の本とした著者のアイディア…
その後が気になっていた話しを読むことができた。娘と別れて暮らす見守り屋の祥子が主人公の続編である。時間というものは,人を一つの状態に留め置かない。祥子と関わる顧客らとの関係が,それまでの「見守る」ことから,はみ出してしまう。それは彼女と,…
お稽古について,正面から答えを出していこうとする著者の企図である。「稽古はそのつど本番である」。あぁ,これを言ってくれてスッキリしましたよ。対比される練習とは,「本舞台(試合)を目指した事前準備である」。稽古が重たいのは,本番だから。稽古…
変身である。能面をつけること,仮面ライダーがポーズを取ること,遠山の金さんが着けた裃を脱ぐことなど,何者かになった後,その何者かであることを理由に「力」を発揮する。このとき,A→Bなのか?という疑問がついて回る。A→A′ は本質的にはAなのであっ…
毒にも薬にもならない,ただただ眺めていられる話しがある。最近の時代劇だと,NHK「小吉の女房」,「大富豪同心」なんかがそう。安心して眺めていられる。この本もそんな一冊。 下町の長屋が常に舞台。通りを面した12世帯と大家が繰り広げる短編集なのだが…
乾き,かさついた主人公・祥子をとりまく事態が,日々,新たに起きる。そんな中,みずみずしさを現すのが,夜勤明けのランチ(夕食か?)と酒,そして別れて暮らす娘だ。 それぞれの食事のシーンでは,まばゆい位に食事に日が当たる。そして気がつけば,注文…
結論は出た。最後まで,可能な限り現役でいることだ。老後や隠居,余生はない。年齢に伴う老いや衰えは確実に存在する。そのために,どう生きるか。たけしは言う,自分を客観視できる力を鍛えろ,と。「もし何かひとつに執着していたら,今の自分はなかった…
川柳とは,ここまで人柄を表すのか,と驚きの一冊だ。落語家の大師匠らが集った「鹿連会」。三遊亭圓生,桂文楽,古今亭志ん生,柳家小さん,桂三木助,春風亭柳枝,林家正楽,三升家小勝,橘家圓蔵,金原亭馬生,三遊亭圓歌などなど,眩しすぎるラインナッ…
自身の枠をぶっ壊して人生を切り開いた女性の物語である。メジャーな存在となった人は家族について語り出すものだが,ヤマザキマリは違う。自身の今について,自身の生い立ちについて語るときに,あの,伝説の,規格外の自身の母親に触れざるを得ない。 お嬢…
職業,いや違うな,生き方としての介護。それは,パンキッシュでロケンローなのだ。半端な覚悟で迷い込んじゃいけない。下村恵美子を見よ。誰もが手を焼く「とてつもないばあさま」がいると聞くと,胸が高鳴り,その顔を拝まなければ気が済まなくなる社会福…
いつ朝の連続テレビ小説の主人公になってもおかしくない人物・小嶋千鶴子そのひとの評伝である。なんてったって,この人,父,母,姉と家業の呉服屋の後継者を次々と失い,自身が継ぐため,進学を諦め,年の離れた弟を一人前にするために艱難辛苦と機転と勉…
新聞各紙で話題になったので,ご覧になった方も多かったのでは無いか。文藝春秋6月号に掲載の村上春樹「猫を棄てる―父親について語るときに僕の語ること」である。 何度も戦争に召集された国語教師の父。俳句を愛した父は,作家になった村上春樹に,小説上…
ラブホテルという特殊な舞台のあれやこれやを軽妙に語る圧倒的なセンス。この著者がすごいのは,それだけじゃない。男女関係の定式を示すのだ。満室の際のウェイティング・ルームを題材に,「私は男女の役割は違うと考えております」という。「デートを楽し…
それは,カラー写真のせい!と,チコちゃんなみに素っ頓狂なことを言ってみたくなる。京都という圧倒的なポジションを成しているのは,伏見稲荷大社の千本鳥居,池とセットになった金閣寺,ザ・苔寺の西芳寺,さらに,平等院鳳凰堂と石清水八幡宮などだが,…
「全身がん」と称した晩期の言葉を集めた本だ。類書も多く出版され既に読んだものもあり,重複するだろうと思って手に取るのをためらっていた。だが,活字も大きく,話し言葉,全面の写真の多用もあって,すぐに読み終えた(47歳の写真は出川哲朗にそっくり…