読書感想文「なぜ、おかしの名前はパピプペポが多いのか? 言語学者、小学生の質問に本気で答える」川原 繁人 (著)

 言語学最前線である。
 言葉は変化するとはよく言われるし、実際、変化が起こるのは、発する言葉の伝達速度アップと効率化の欲求の表れであったといえそうだ。社会集団が安定化し、閉じた関係性の中で意思や意味を伝えるようになると、省略と省エネが起きる。「最悪(でも)、言わんでもわかるやろ」となる。何でそうなるか。面倒だからである。言語化は頭を使うし、意図が伝わったかを確認するには「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ」るのである。つまるところ、言語よりも動画・映像で「わかる」のであれば、言葉は省かれる。
 明治期に方言が排他的な扱いを受けたのは、そもそも出身の違う新政府高官同士のやり取りが不便だったからだろうし、昭和の高度成長期にNHKアナウンサーの言葉遣いに注目が集まったのは全国から集まった若者が都会での生活で言葉に苦労したことがいえるだろう。
 翻って、現在も社会の価値観の多様化と国際化で、「言って聞かせて」に一層、重要になることだろう。概念と意味も伝える必要が出てくるからだ。
 また、ChatGPTの出現は、実に有益な「もっともらしさ」のある知見を与えてくれる。世の中、結構、それで十分だったりするので、満足できちゃったりする時代にあって、初等教育から学ぶのが「こくご」でいいのか?「ことば」なのではないか?という疑問も湧いてくる。
 この本の中で質問する小学生と一緒に楽しい時間になるはずだ。
 そうそう、漢字という「言語といわば独立に、文字が存在する」との橋爪大三郎の指摘は刺激的だった。