2023-01-01から1年間の記事一覧

読書感想文「政治と宗教: 統一教会問題と危機に直面する公共空間」島薗 進 (著)

いい大人が外で真面目に語ってはいけないとされるのが政治と宗教だ。 よせやい、野暮だよ、となる。だが、政治と宗教がどうくっつくかとなると話しは別だ。宗教とは、個人の自律した行動を生む規範の元であり、世の中とつながりを持つ上での紐帯の一つだ。な…

読書感想文「農協の大罪」山下一仁 (著)

「変わらないこと」の典型の話しだ。 制度を改定するには,誰かに極端なババ掴みをさせてはいけない。ババ抜きのような疑心暗鬼状態のゲームだと誰もが次のアクションを避けるようになるからだ。敗戦後、占領政策のもと行われた改革のうち、農地改革や財閥解…

読書感想文「三代目司法書士乃事件簿 増補版」岸本 和平 (著)

相続法・家族法のハウツー本ではない。 実直な司法書士が、長いキャリアで思い出すあんなことこんなことを綴った経験譚だ。当然、本人が語るのは、自身が経験した個別の「事件」だ。なので、この一冊は直接、あなた自身のトラブルや悩みを解決したりしない。…

読書感想文「ある行旅死亡人の物語」武田 惇志 (著), 伊藤 亜衣 (著)

取材ドキュメンタリーである。 世の中、人知れず生きている無名の人がほとんどなのだが、さらに人に知られぬようひっそりと暮らしている人がいて、そんな彼らに光が当たってしまったとき、他所からは「得体の知れない人」という烙印を押されることになる。一…

読書感想文「愛するよりも愛されたい 令和言葉・奈良弁で訳した万葉集1」佐々木良 (著)

古文の副読本に採用決定ではないか。 聞こえるのだ。中高生の「ギャハハハ」「バッカじゃない」「やだー」が。所詮、歌だ。思いの丈を叫んじゃった結果だ。カッコいいはずはないのだ。冷静になったとき、くだらねーと思うのだ。 万葉の言葉遣いを解釈から先…

読書感想文「この父ありて 娘たちの歳月」梯 久美子 (著)

父娘の関係とは、他の家族関係と見比べると明らかに違う特殊さがある。例えば、母娘関係がある種の動物的な肉感のある関係であるのに対し、観念的かつ分かちがたい関係だからだ。 書き手となった娘が残した作品と、娘が語る父。溢れるほどの愛を注がれた娘も…

読書感想文「ルワンダ中央銀行総裁日記」服部 正也 (著)

国をつくる話しである。 地味な開発援助の本であるのにロングセラーの一冊だ。途上国で活躍する日本人の熱きドラマがウケるのか。卓越した知恵が難問を解決するからか。いずれでもない。この本に書かれるのは、経験豊富な中央銀行職員が当たり前の金融政策・…

読書感想文「できる社員は「やり過ごす」」高橋 伸夫 (著)

本当は正しい高橋伸夫である。歴史と伝統に裏打ちされた年功序列で運営される日本型経営が正しかったのだ。構造改革、リストラクチャリング、業績主義、成果主義…この30年間導入されて、上手くいったのは何社あるんだ?日本経済はどうなった?肝心な成長はど…

読書感想文「親鸞と日本主義」中島岳志 (著)

親鸞が好き過ぎて、親鸞原理主義に陥った若者たちがいた日本である。 青年が艱難辛苦から、救われたい、逃れたいときに、「他力本願」に気づき、阿弥陀さまに慰撫され、癒され、構ってもらえることが嬉しかったの相違ない。寂しかったのだ。そんな青年たちが…

読書感想文「感性でよむ西洋美術」伊藤 亜紗 (著)

「考えろ、感じろ」な美学入門である。 実は、僕らは美術の教科書を持っていたり、たまに開いたりしたが、何か教わっただろうか。実は、美術とは知識であり、概念である。「きれー」とうっとりしたり、「すごい!」とため息をついている場合では無いのだ。こ…

読書感想文「徹底討論 ! 問われる宗教と“カルト”」島薗 進 (著), 釈 徹宗 (著), 若松 英輔 (著), 櫻井 義秀 (著), 川島 堅二 (著), 小原 克博 (著)

あなたは、このテレビ番組をご覧になられただろうか。時宜を得た番組とその後の出版とは、まさにこのことだ。「あの問題を語る上で日本を代表するベストメンバー」という感想が寄せられたという。まさに語るべき人たちが語った一冊だ。 神仏の類いだ。科学の…

読書感想文「アフターコロナの「法的社会」日本 社会・ビジネスの道筋と転換点を読む」長谷川俊明 (著)

間違いなく我々は転換点にいる。やがて世界史の中においても語られるようなだ。 雰囲気やムードが行動を制することがあったとしても、それは恒常的なものにはならない。ルールや法が決断をさせ社会的な行動の決め手となる。 この本は、ルールを多面的に見る…

読書感想文「見果てぬ日本: 司馬遼太郎・小津安二郎・小松左京の挑戦」片山 杜秀 (著)

読書家がニヤリとする一冊だ。 司馬遼太郎、小津安二郎、小松左京のそれぞれの作家論は山ほどある。3人分揃ったパッケージだ。イヒヒ。楽しい。全体の半分以上を占めるのが司馬遼だ。それも司馬遼太郎の小説ではなく、エッセイを読んでいる者は気づくのだ。…

読書感想文「ひどい民話を語る会」 京極 夏彦 (著), 多田 克己 (著), 村上 健司 (著), 黒 史郎 (著)

こっそりと申し上げたい。全落語家、落語作家は必読である。急げ、新作(新古典か)のネタの宝庫だ。 まぁ、アレだ。いい大人が四人も集まって、何と馬鹿馬鹿しいことを言ってんだか。ダメなオジさんたちによるダメな会話である。寄ってたかって「ひどい話し…

読書感想文「考える教室 大人のための哲学入門」若松 英輔 (著)

「知」あるいは「わからない」ということへの謙虚さについての本だ。その実は,態度についての本である。ここでの態度とは,モノゴトについて考えるための姿勢のことだ。 「立て板に水」でパパパァーッと威勢よく言い切ってしまう人はカッコいい。ヨッ!と掛…

読書感想文「ぼけと利他」伊藤亜紗 (著), 村瀨孝生 (著)

ケアのプロと,身体というインターフェースの先生による往復書簡集である。 ボケという状態と死にゆくプロセスの看取りのケアにおいて,作業としては,そこにある「体(からだ)」が対象ではあるものの,日々,変わる状態だったり,新たな人を受け入れていく…

読書感想文「体はゆく できるを科学する〈テクノロジー×身体〉」伊藤 亜紗 (著)

脳と体と意識の研究最前線である。 「体を動かそうとしているのは頭だとして,頭で思ったとおりには動いていない体を動かしているのは頭以外の何なのだ?問題」なのだ。できていない,という結果はあるのだ。できている像が頭に描けておらず,かつ,そのぼん…

読書感想文「おっさんの掟: 「大阪のおばちゃん」が見た日本ラグビー協会「失敗の本質」」谷口 真由美 (著)

胸糞悪くなって最後まで読み通せるだろうか。途中,本当にそう思った。 モノカルチャーでホモソーシャルな組織運営,グロテスクな上意下達な縁故主義,バカバカしいくらいに不明瞭な意思決定。あー,ダメだ,こりゃ。しかも,まだまだ,存命どころか現役の方…

読書感想文「新プロゼミ行政法 「3つの手続」で行政法の基本を学ぶ」石川 敏行 (著)

ジョークのわかる人間は大切だ。もちろん,ジョークを思いつく人間がいてこそであり,この本は石川節のジョークが冴えわたる。 この本の性格は,「ザ・行政法読本」なのだが,著者のカラーや思い(気分,感情)が多分にこもっている。そう,石川先生の全身性…

読書感想文「つかむ・つかえる行政法」吉田 利宏 (著)

吉田法令本だ。面白いゾ。 法令をわかっている人だ。元衆議院法制局の人なんだから当然だろ,と言いたいアナタ,ちょっと待って。わかってることの深さなのだ。ストンと腹落ちしてるからこそ,多角的に説明ができる。その吉田の最大の強みは,例えツッコミ……

読書感想文「私は合格する勉強だけする」イ・ユンギュ (著), 岡田 直子 (翻訳)

勉強してますか? 豊穣かつ滋味深く奥行きのある知識と教養を持った人間になるための学びの話しではない。試験勉強だったり資格取得のための勉強の話だ。なので,イ・ユンギュは言う。むやみに一生懸命,勉強する必要はない。満点や高得点を取るためじゃなく…

読書感想文「老人ホテル」原田ひ香 (著)

底辺や逆境を描かせると原田ひ香は本当に強い。 今回は,生活保護からの脱却がテーマだ。受給することは権利である一方で,受給者世帯であることは世代を超えて受け継がれてしまいがちなものだ。なぜか。条件が揃った時に,抜け出すための生活様式を学ぶ機会…

読書感想文「自分の仕事をつくる」西村 佳哲 (著)

静かな,そして熱い本だ。仕事において,本質をつくるための試行錯誤である。 登場するそれぞれの人にとっての仕事への目線と方法論だけど,ライフハックの開陳でもなく,ノウハウの伝授であったりでもない。じゃあ何だ。その仕事をしようとするキモは,案外…