読書感想文「ある行旅死亡人の物語」武田 惇志 (著), 伊藤 亜衣 (著)

 取材ドキュメンタリーである。
 世の中、人知れず生きている無名の人がほとんどなのだが、さらに人に知られぬようひっそりと暮らしている人がいて、そんな彼らに光が当たってしまったとき、他所からは「得体の知れない人」という烙印を押されることになる。一般に、身元不明者と呼ばれる人が、ちょっとばかり、死に際を間違っただけなのだ。
 結局、縁者は見つかり、小学校の同級生が語る思い出も世に出た。それだけでも記者二人は役割を果たした。稀な姓というラッキーもあったし、SNSの発達というツールの支えもあった。
 人生において伏せておきたいことがあるともいえるし、病気や判断能力が衰えている人もいる。だからこそ、どう死ぬか、いや、どう死ねるか。うっかり死んでしまうにしても、あらかじめ最期を任せられる人の存在がポイントだ。結局、薄ぼんやりとしたまどろみの世界と行きつ戻りつするにしても、しっかりしなくちゃならないし、しっかりと支えなくてはならない。世の中と距離を保とうとする人ほど、大事にすべきポイントだ。
 そして、人生とは難しい。