読書感想文「歌うように伝えたい 人生を中断した私の再生と希望」塩見 三省 (著)

 病を得るという言い方がある。病後の自分を省みて,病気の結果,変わってしまった自分を第三者的な目線で見おろすことで,やっと言える表現だ。
 片麻痺,半身不随の闘病期である。リハビリの毎日とは,こうした心情が湧いてくるものなのか。同じリハビリに励む人たちとの交流はこれほどまでに互いを励まし合うものなのか。症状や障害の重さは,これほどまでに自分自身を失わせるものなのか。
 俳優・塩見三省。彼を支えるのは,過去の多くの方々との交流の記憶。そして,病後に彼を奮い立たせてくれた多くの方々との間で生じる「生きている,生きていたい」と思わせる実感である。
 病気によって失った身体機能とともに,それまでの自分ではない自分の人生をスタートさせた。葛藤があり,鬱屈がある。だが,感謝があり,喜びもある。
 我々は必ず老いる。当然,健康ではあり続けるわけはない。結果,様々な病を得て,周りの支えで生きる。私たちは,病を得る前と得た後を悔恨たっぷりに表現してくれた一人の役者に感謝を伝える番だろう。