読書感想文「俺たちはどう生きるか」大竹 まこと (著)

 爺さんの本である。以前であれば,オヤジと呼ばれる人たちが世の中の不条理や自身の情けなさ,みっともなさ,切なさ,恥ずかしさ,つらさなど口から吐き出せない諸々を噛みしめる人たちが持っていた思いを,爺さんになった大竹まことが吐いている。爺さんとは,うんうんと頷いて陽の光に当たっているか,僅かになった同輩とセコい口喧嘩をするのが相場だと思っていたが,時代状況が変化しているらしい。これも高齢化社会というものなのかもしれない。
 大竹まことは,負けてよかった,負けておいてよかったと言う。あのとき,勝っていたら,負けを知っている今の自分はいない。負け続けること,それは遠回りすることだ。簡単に勝ってしまったが故に,負けることで得る経験や感情を手に入れることはない。
 爺さんになった大竹まことは,病いを得た。そして,唖然とさせられる現代社会を思う。過ぎ去った自分の人生を振り返る。未来や目標がなく食うことだけで精一杯の頃を思い返す。
 母音に濁点をつけて発声したくなる,続けて「そうだよね」と言いたくなる。そんな私自身も発見させられる。


俺たちはどう生きるか (集英社新書)

俺たちはどう生きるか (集英社新書)