読書感想文「この父ありて 娘たちの歳月」梯 久美子 (著)

 父娘の関係とは、他の家族関係と見比べると明らかに違う特殊さがある。例えば、母娘関係がある種の動物的な肉感のある関係であるのに対し、観念的かつ分かちがたい関係だからだ。
 書き手となった娘が残した作品と、娘が語る父。溢れるほどの愛を注がれた娘もいれば、希薄な関係の娘も登場する。それでも、この9人の娘たちは長じて父を意識する。重い重い業を背負った娘ということもできようが、娘たちは、やがて成長したのちに父を発見したのだろう。
 それにしてもだ。膝を打つのだ。この人が成り立つのは、こんな生い立ちでこんなふうに家族と過ごした日々が、彼女たちを作ったのか!と納得がいく。もちろん、遺伝や環境が必ず一つの個性や才能を生むのではない。その人本人の意思や発意があってのことだ。それをわかっていても、父娘関係を噛み締めるようにうなづくしかない。
 街中で親子連れを見る目線が変わるし、身の回りの女性や、行き交う人々の中の女性を考えるとき、彼女たちの父親を想起してしまう。どんな父娘関係だったのだろうな、と。