読書感想文「歴史の話 日本史を問いなおす」鶴見俊輔 (著), 網野善彦 (著)

 鶴見俊輔が没して8年である。日本の言論界は、鶴見俊輔が去ってホッとしているのがわかる。鶴見俊輔にバカにされるのではないか。根本から違うよ、と言われるのが怖かったのだ。そうした「わかっている人」にハナっからひっくり返されちゃうのは、堪えたはずだ。
 この本が出版されて30年になる。一読者としてはつくづく参ったなと思う。対談だからリラックスしているのはわかる。ユルユルとしながら原理原則を語る。これまでの学者や言論人の発言とその繋がりが語られる。これらが本質を突いているのと同時に、まったく古びていない。まあ、現時点でこの二人の対話に相当するやり取りをできる者はいないのだから、当然なのだが。
 今の言論人の問題とは「ウケる」ことを気にし過ぎていることではないか。網野も鶴見も、自分の目玉を信じ、自分の頭で考えたことを言い、自分の手足で集めたネタで勝負した。アッと言わせたい、注目を集めたい、話題になりたいに捉われている今の人たちとはからっきし違う。この一冊からは、ウケようが嫌われようが、言うべきことを言い続けるんだ!という意思の大切さを読み取らずにいられない。