読書感想文「大磯随想」吉田 茂 (著)

 吉田茂が主義主張を語るときの正直さと洞察力が染みる一冊だ。
 ソビエト中共を嫌い、大使を務めたイギリスに同じ通商国家として信を置く。吉田茂を戦後のリスタートに宰相を任じた決断に、ただただ感謝したい。もっとも、もう吉田しかいなかったのかも知れないのだが、「世界とは」「国家とは」を語ることができたのは吉田だった。吉田にしてみれば、知ったかぶりの視野の狭い連中は、薄らトンカチ、薄らバカに見えたに違いない。
 吉田ほどの知恵や機転があれば、プラザ合意リーマンショックの乗り越え方は違っただろう。言うべきことを着地点目掛けて効果的に言い、現実的実践的な成果を上げただろう。交渉ごとや重責に立ち向かう度胸の話しでもあるが、普遍性のある判断ができる一角の人物をどう作るのか、という話しでもある。放って置いても人は出てくるかも知れないが、人を活躍させるには、然るべき立場に置いてやらねばならない。
 スケール感があり歴史的洞察力を持った人間が求められる。この一切古臭くなっていない短い随想を読み終えて、強く思う。