読書感想文「名著の話 芭蕉も僕も盛っている」伊集院 光 (著)

 「原典って、実はこうだぜ」のアフタートークである。
 もちろん本番は人気テレビ番組「100分de名著」だ。本番で言ったことのおさらいも兼ねて深掘りする。「奥の細道」は、「奥の細道」というフィクションである。「奥の細道」ワールドというものを芭蕉は構築する。その上で、地の文と句でもってワールドを見せる。実はその句の鑑賞とは、句だけから得られたものじゃなく、旅の行程でもって師匠と弟子がともに歩くさまを情景として描かせておいて、句がバーンっと放たれることで読者がワールドの中心へ持っていかれる。
 デフォーが描くペストもノンフィクションと創作の境目がわかりにくい。ペスト禍のなか、一直線な惨禍を描くのではなくガチャガチャした日常がともにあったことも書いた。だからこそ浮かび上がる人間とその世の中なのだ。
 最後を彩るのはご存知・ピノッキオ。だが、みんなは全然知らないビノッキオなのだ。つい、みんなが知ってるほうのピノキオでわかった気になっていても、原典そのものを味わうことではなく、原典とその構造を知るプロセスの面白さを案内人は読み手の僕らに伝えるのだ。そこにワクワクするし、僕らの謙虚さが問われる。
 本を深掘りする先導役とともに、立体感のある読書をする時間が得られるはずだ。