読書感想文「地図と拳」小川 哲 (著)

 威と愚である。
 作家にとって、満州とはよほど魅力的なテーマなのだとあらためて思い知らされる。確かに、ロマンと虚構だ。実態は怪しげで掴みようがなく、虚勢と思惑ばかりが充満している。刺激的であり創作意欲がわき、作家としては堪らないのだろう。
 地平線の向こうまで続く大地で、土着性を排し、最大限、頭の中だけで世界や統治機能を作り上げてみたのだ。山師がどれほどデカいことを言い合うかを競い、そしてそれを信じさせたヤツが勝ちだった。言うなれば、詐欺師でありイカサマ師の体制なのだ。しかも、組織の中の権力闘争と権威獲得として虚構の「オレたちの考えた大作戦」を言い合った結果だ。ヤレヤレ。
 インチキ臭いパワポ資料づくりに勤しみ、わかった風のことを言い、さもさもできるように聞かせていることが、いまの世の中にも溢れている。
 現代社会は、さしづめ「プレゼンとマネー」である。パワポと3D動画で大層なことを言うのだ。だが、それらの結果、どんな「敗戦」の姿を見せるのか。そして何を失い、どんな精神的打撃を受ける者が現れ、何が残るのだろうか。