神野直彦という「勉強しよう」


 神野先生の岩波ジュニア新書「財政の仕組みがわかる本」を読んだ。ジュニア向けなどとあなどってはいけない。著者は神野直彦である。そう易々と僕らの前に立つはずはないのだ。

 この本で,かねてから疑問だった神野直彦さんという人について氷解できた。ずっと引っかかっていたのだ。なぜ,この人の講演やシンポジウムなどで登壇した際に,尖鋭的,かつ執拗に同じ点を語るのか。なぜ,この人はテレビの討論などに登場した際,他のゲストと交わるよりも自分の主張を宙に向うようにしゃべり続けるのか。

 「神野直彦」は難しい。いや,一読して,または話を聞いてわかった気にさせられるが,それを他者に説明できるように理解できるまでに「わかった」には簡単には到達しない。修辞に凝らない分だけ内容は濃く重い。それゆえに難しい。本人もきっと,それはわかっているし,確信犯的にやっているのだと思う。この限られた時間で「理解」されるとは思わない,それでも主張をし続けることで興味を抱いたり,理解されるきっかけになればいい,と。そう,常に彼は「勉強しよう」と言っていたのだ。そのことに,この「ジュニア」というには十分に重い本書を読んで気がついた。

 ジュニアという言葉が日本人に一番身近な例は,ジュニアハイスクールであろう。これで言えば,ジュニア新書の対象は中学生を想定年齢にしていると考えるのがあたり前の感覚かと思うが,この神野著はどれほど奇特な中学生が手に取るのか,さっばり検討もつかないが,手に取ったあともジュニアに対して何ら手を緩めてさえいない。いつもの神野節である。おそらく神野先生はこれでいいと思っている。ここから「勉強しよう」と誘っているのだ。

 折角なので,この本についてふれておく。まぎれもない良書である。財政について初学者が基本的な考え方と仕組み,そして現状を押さえるよう書かれている。この本の担当編集者は,「財政って何をしている」のか,について,

 編集を担当したぼくは,年金を払ったり,公共事業をしていると答えました.これはまちがいではありませんが,一般会計予算の経費別分類グラフをつくってみると,驚きました.トップが社会保障関係費で26%,これはなかなかいいぞと思いました.ところが,2位はなんと国債費.つまり,国債という借金の返済に24%も使っていたのです.
 恥ずかしいのですが,自分の住んでいる市の予算規模も,何にお金を使っているのかも知りません.知らないということは,国の政策がどうか,自治体の政策がどうか,ほとんど評価できないと同じですね.もっと知らなくてはいけないと思いました.


ジュニア新書編集部 -財政のしくみがわかる本- 神野 直彦 著


と語り,財政についての学びそのものへの誘いに成功している。文章は平易で「ですます」で書かれているし,どうやって現実化させればいいのかプロセスが思いもつかないような新規アイディアが書かれているわけでもないので,安心して読める。天候が荒れる連休であるが,行楽に使えないのであれば書店で本書を探していただきたい。オススメであるし,私は本書の最後で語られる「財政を民主主義の手にゆだねる」は,皆さんと議論していけることを希望している。そのために私ももっと「勉強しよう」と思う。


財政のしくみがわかる本 (岩波ジュニア新書)

財政のしくみがわかる本 (岩波ジュニア新書)