司馬遼太郎と山本七平を比較した新書本が出てたよな,と思い探すが見つからない。手元にあった二人の対談を読む。
なじまぬ米国式管理者教育
司馬 昭和三十年代後半の時期に,どこの会社でも管理者教育というのがはやりましてね。そういう教育を受けてきた特別な社員が,職場ごとに管理者教育をしていくんですが,その原型はアメリカ軍が得た知恵にある。つまり,第二次大戦でアメリカ軍が得たラインとスタッフの関係の知恵なんです。それをさんざん日本の会社でやったわけですけれども,あれは結局ダメになった。
山本 それはダメですよ。本式にやればやるほどダメです。出版社でも社長の息子が早々にアメリカに留学してこのやり方をそのままの形でもちこんだ社はすぐつぶれました。K社,U社すべて,戦前は日本を代表した出版社だったんですが……。
司馬 で,いまはまた古来の源平以来のやり方に戻っている。しかし,それはやはりどこかおかしいんでしょうな。キャップがすべての責任を持ち,すべてを判断し,最高の知恵者であるべきでしょう。どうも日本ではこれはうまくゆかない。
山本 絶対に,そうはならないですね。まず第一にたいへん面白いのは,社規・社則というのが,会社では全然読まれていないことですよ。
それにむこうではマニュアルという業務規定がある。これだけのことをしなさい,これがあなたの権限であると。それはやっぱり枠でなく中心をおく主義で,まんなかに定款があり,ついで社規があり,社則があって,それにもとづく権限がある。そして業務規定があっておれのやる仕事はこれだけだときちんと決まってるわけですその上で,契約を結んで入るわけでしょう。
ですから,平気でこれは私の権限じゃないからできない,とか,それはお前の権限じゃないから口を出すな,とか,おたがいにいいあって平気なわけですね。
p.76〜77 日本人とリアリズム 「八人との対話」司馬遼太郎
司馬遼太郎が山本七平と対談したのは,軍隊組織の権能と責任。これが話題となったときのやり取りだ。アメリカ由来のシステム・成果主義の導入を思い出させる。1960年代にもこんなことがあったのね。
- 作者: 司馬遼太郎
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 1996/05/01
- メディア: 文庫
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