コショウをつかったあの頃


 手作りの「お弁当」には,とんと縁がない。10代の後半,すでに母親は弁当をつくってくれる気はなく,学食で食べよ,と昼食代を渡されていた。食券方式のありがちな学食でのランチは,選択肢はいくつもあったが,AランチやBランチなどの定食を頼むことが多かった。どちらかが生姜焼き定食だったように思う。ま,その年頃は,それが旨かったのだ。
 この学食の最大の欠点は,みそ汁が,みそ+わかめ+お湯の3つだけで構成されていたことだった。おいしくないのだ。寂しいのだ。だしの素さえ入れてくれてさえいれば,手っ取り早く解決できたものが放置されていた。僕らが採りうる方法は少なかった。このみそ汁未満を飲まない。これを実行する者もいた。戻した時に学食のおばさんと目が合うのがいやで,私はこれに挑戦することはできなかった。小心者なのだ。こうなると残る方法は,味をテーブルの上の調味料でアレンジするしかない。ろくな調味料があるわけじゃない。いずれにせよ,愚挙か蛮行になる中で,採ったのはコショウをドサっと投げ入れることだった。コショウ味のスープである。ときにはエスカレートもしたが,毎回,必ず実行した。こういうもんかな,程度の味である。いや,後に響かない味になる。
 学食のコショウには世話になったな。本来のコショウの使い方ではなく申し訳なくも思う。