「バカにバカと言ってはいけない」ということについて


 かつて,上司にとくとくと言われた言葉だ。「バカは自分がバカだということは知っている。それだけにバカと言われることにとても敏感に反応する。だから,決して,バカに向ってバカと言ってはいけない」。とても説得力があり,そうだ,気をつけなきゃ。この一線だけは越えちゃいけない,と心してきた。
 先日,ふと,「バカだ,こいつ」と思った相手に,いけね,ガマンしなきゃ,と言わずにガマンしたとして,顔には当然,「やれやれ」と書いてあり,いや,むしろ,「バカだ,と言おうとしてるんだけど,ガマンしてんだよね,俺」とすら,書いてあるとしたら…。そして,そのことをバカと言われることに過敏になっているバカに,悟られているとしたら…,と思った。
 バカにバカとは,言ってはいけないのだろう。だが,単純なガマンでいいのか。それは最低限の最後の一線なのであって,内心の「バカじゃね」も相当に危険だ。おそらく,態度に出でいるはずなのだ。天を仰ぐ仕草,地団駄,ため息。
 では,どうすべきなのか。無視や無関心がいいのか。当然,ダメだろう。バカと思うその根本の不遜さ,放漫さ,不誠実さを持つ自分自身に向き合うことだろう。「バカにバカと言ってはいけない」では50点だ。誰にだってバカと言ってはいけない