クルマを洗ってパンを買おうとしただけなのだが


 一昨日,ハトかカラスかはわからないが,私のクルマの運転席側の後部座席のドアにべっとりと,そりゃあもうべっとりと糞をつけられた。スズメなどの小鳥の量ではない。幸いにしてドアのノブ部分ではなかったため,週末まで放っておいた。
 そもそも私は,洗車をする方ではない。白やシルバーの汚れの目立たないクルマに乗っているせいでもあるが,クルマそのものはシンボリックなものだとは思うものの,私がクルマに求めるのは渡辺和博が言った「イバリ」や「ジマン」ではないから,「チリ一つない」状態をキープする必要は無く,ただただ実務的であればよい。とはいえ,この実務的にはアメニティーやカンファタブル,場合によってはエモーショナルも含まれるから,クルマという存在は難しい。今回の大量の糞害は,実用性を損なう状況だ。だって「ねーねー,おかーさん,あの人,鳥のウンチがついたクルマから降りてきたよー」と言われかねない。社会的地位を失ってしまうではないか。まぁ,大騒ぎするほどの地位があるわけじゃないが。大人としてどーよ,である。
 洗車は近所のコイン洗車場に行く。わざわざガソリンスタンドに行き,バイトの兄ちゃんに「いやー,鳥の糞がついちゃって」と言い訳するのも嫌だし,できれば,こんなもの人目につかずに洗ってしまいたい。クルマをさっさと洗って,昼食にパンを買おうと決めた。コンビニのパンは,結局がっかりするので,面倒だがスーパーの店内でできたてを売るベーカリーへ行くことにする。この方が少なくともまともなパンが食べられる。スーパーはドラッグストアやブックオフなどと駐車場を共有するタイプの店なので,常に多くの人が出入りしている。
 洗車場は,幸いにして誰もいなかった。3台分のスペースの一番奥,鳥の糞が道路から見えない位置にクルマをつけた。最近は洗車コースが多様化しワックスまでかかる。それだと¥500だ。私は,そんなものはいらない。鳥の糞が落ちればいいのだ。シンプルな¥300コースでも,水→洗剤・お湯→水の6分間。十分だ。コースも決めたのでコインを投入。ポケットの中の小銭入れには,500円硬貨が1枚,100円硬貨が2枚,50円硬貨が1枚,10円硬貨が3枚,5円と1円は覚えていない。当然ながら,500円硬貨を投入。「お選びになったコースと金額が違います」。はい?お釣り返せば,いいじゃん。返却レバーを押して,再挑戦。同じ結果。あっ,そう。釣り銭計算・返却機能が無いのね。しかし,鳥の糞のついたクルマをもう,運転したくないのだ。あぁ,どうしてくれよう!2〜300メートル先にセブンイレブンがあったな,と思うがクルマを洗ってから,パンを買いたいのだ。店に行ってしまうと,先に買って,つい食べてしまうじゃないか。あぁ,もう予定が狂う。
 見回すと,洗車場の敷地に●サヒ飲料と■カコーラの自動販売機があった。「ははぁ,あれで両替せぇちゅうのやな,兄さんも商売上手よのー」とインチキ関西弁が出る。ただ,どうでもイイ無駄な出費である。自動販売機正面に向う。●サヒ飲料は,飲んだことのある緑茶とブレンド茶。烏龍茶は無い。■カコーラも烏龍茶は無いものの飲んだことの無いお茶が一つ。ヨシ!これだ。両替のため500円硬貨を投入。「ゴロン」「ドテ」。はぁ?再チャレンジ。「ゴロン」「ドテ」。あのさー,今どき,新500円硬貨がスルーされちゃう自動販売機って,いったい。とあきれながらも,仕方ない,隣の●サヒ飲料の自動販売で緑茶を買う。
 「ジャラ,ジャラジャラジャラジャラー」。緑茶は120円。釣り銭は380円。白い硬貨が4枚どころではない。50円硬貨が7枚!100円硬貨が一枚も無いのだ。ふざけた自動販売機だ。いつもなら楽しむところだが,なにやら,悪い予感がする。悪い予感とは当たるもので,洗車機は50円硬貨を受付けない。スルー。まったく無駄な出費となってしまった。腹立たしいので,お茶は後部座席に放り込む。
 クルマを出す。選択肢は無いのだ。千円札から100円硬貨のお釣りを得るのだ。もう無駄な失敗はしない。ええい,パンを買う。案の定,スーパーの駐車場は混んでいる。空いている駐車スペースの隣のクルマにはオッサンが乗ったままだ。いつも不思議なのだが,駐車場で車内で待っているのは何故だ。連れと一緒に買物せずとも店内を廻ったらどうだ。結構,楽しいものだぞ。そんなに夢中になれるラジオでもやっているのか。オッサンを観察している場合ではない。私はパンを買ってお釣りの100円硬貨をゲットするのだ。
 妙な焦りがある分,普段は買わないコーヒー風味のロールパンとクルミ・レーズンのバゲットを買う。締めて300円なり。あやうく50円硬貨で払いそうになる。待て,目的があったはずだ。千円札を出し,念願の100円硬貨を2枚と500円硬貨1枚を得る。一目散に洗車場に向う。いや,あんまり覚えていない。そういや,パンを一口,食べたぞ。ほら,さっき言ったとおりじゃないか。先ほど停めた位置にクルマを入れる。結局,私しか来ていないのだ。
 シンプルコース¥300をスタートする。鳥の糞はこびりついてなかなか落ちない。最初の水ではガッチリ残ったままだ。温水・洗剤となってやっと大半が落ちた。もちろん,全体を洗う。洗車しだすとあちこち汚れていることに気づく。結局,最後のすすぎの水の段階で鳥の糞を落としきることができた。
 疲れた。家に直行した。もちろん,車内でパンをつまみながら。