進んでいるのか,否か。進めていけるのか,否か。


 いよいよ今年も半月となり,年暮れモードに突入という方も多いことだろう。もっとも今現在で,ラクチンに今年を振り返るだけの方はどのくらいいるのか察しがつかない。私同様に年末に向けて一山も二山も予定があるのが大勢ではないだろうか。サービス産業化が進んだ故に風物詩を,全体が均質にとり行うことの困難さが,年々「年末の雰囲気」を薄れてさせていると要因と言っていいのだろうし,これから平坦化はますます進むだろう。
 さて,前置きが長くなったが今年という年は,「民生委員制度創設 90年」として扱われてよかったが大して話題にされなかった。この民生委員について以下,触れてみる。
 話は10年以上前にさかのぼる。自治・分権に関し民生委員を取り巻き次のやり取りが行われた。


中央省庁ヒアリング
【厚生省】
・民生委員の活動の源は、厚生大臣から辞令をもらっている名誉職であるとの誇りと責任感。今後の本格的な少子・高齢社会の到来を控え、さらに民生委員活動に大きな期待が寄せられていることを考慮すると厚生大臣の委嘱は必要不可欠。
(略)
〔主な意見交換〕
# 民生委員については、市町村が推薦し、厚生省の審査は形式的である。また、非常勤特別職の地方公務員として費用弁償している。大臣委嘱を有りがたがる人もいるかもしれないが、世の中は大きく変わってきており、自治体に任せてもよいのではないか。今後、市町村を中心に福祉を進め、充実していく上で、民生委員の果たすべき役割を厚生省はどのように考えるか。


  行政組織として福祉事務所があるが、福祉事務所は待ちの姿勢であるのに対して、民生委員は能動的であり、時代に応じたそのあり方を考える必要はあるが、この基本的な機能は充実していく必要。委嘱に伴う経費、研修経費は一般会計で、実費弁償、民生委員協議会費用は交付税で国も負担している。大臣委嘱制については、現在の民生委員トータルの心情を尊重していきたい。


日 時:平成8年7月15日(月)13:30〜16:45
地方分権推進委員会第58回審議概要(速報版)


面白いことに,民生委員たちの声をもとに発言しているのは国の方である。民生委員の方々の誇りの源泉の一部分は「国」が直接,自分たちに委嘱しているからであることを知っている。これに対し地方側は,「大臣委嘱を有りがたがる人もいるかもしれないが、世の中は大きく変わってきており、自治体に任せてもよいのではないか」などと,具体性に欠く議論をしてしまうのだか情けなくなる。民生委員制度そのものに切り込むこと無く,「いるかもしれない」などとフワフワした物言いをし,かつ「自治体に任せてもよいのではないか」と事務手続論を吐く。違うだろう。本当に,民生委員さんたちを向いて話をしているのか。
 人を動かす構想が覇気として伝わってこないわけだが,この話は,グッ進み,この秋に続くことになる。

○ 民生委員と人権擁護委員の委嘱は大臣ではなく市町村が行った方がよいという考え方について、過去にこうした提言を行い、それに対して所管省庁から回答はあったか。
→(北本市)平成8年の際の議論では、厚生労働省は「民生委員の活動の源は厚生大臣からもらっている名誉職であるとの誇りと責任感である。今後の本格的な少子高齢社会を迎えるにあたって、民生委員の活動に大きな期待が寄せられていることを考慮すると厚生大臣の委嘱は必要不可欠」と結論付けている。このような回答では、それ以上議論にならない。まず、国がナショナルミニマムとしてやるべきことをリストアップし、それ以外は地方でやるという議論をしていかないと、分権の議論は進まないのではないか。
○ 過去に市町村が推薦した民生委員について、大臣の委嘱が受けられなかったものがほとんどないのであれば、コストを掛けて二度審査する必要はないのではないか。
○ 戦前では、大臣からの委嘱は名誉であるという感覚があったかもしれないが、これだけ分権が進んだ現在、市民から選ばれた市長からもらった方がよっぽど名誉ではないか。
○ 民生委員について、国から70歳から75歳の人は認めないという趣旨の通達が各都道府県に出されており、その基準に基づいて差し戻しになったという例を聞いたことがある。
→(秋田市)国のルールの中には、きちんとオーソライズされていないあいまいなものが多くある。木材を使って福祉施設を建設しようとする場合、建築基準法や消防法上は問題ないのに、あいまいなルールの下、火事の危険があるということでなかなか認められないことがある。


開催日時 平成19年9月13日(木) 14:00〜17:00
第17 回 地方分権改革推進委員会 議事要旨


なんと,同じ話が蒸し返されている。結局,10年以上前の話は,止まったままとなっていたのだ。しかも「これだけ分権が進んだ現在、市民から選ばれた市長からもらった方がよっぽど名誉ではないか」とは,誰に聞いてんだ?聞く相手が違うだろう。国に言うことではない。少しの想像力を働かせればわかることだ。「名誉ではないか」 -> 知るかそんなもん,であろう。どっちが名誉ですか?とは小学校の放送部のインタビューだってそんな間抜けなことは聞かないし,そもそも品性を疑われる。
 地域でのトータルの福祉の展開を考えたときに,民生委員を含むトータルなケアの実現を地方からの提案していくことなし進まないだろう。単に事務手続,誰が委嘱するか,の話を繰り返す構想力の欠如,議論展開の矮小さに目を覆う。
 この翌月に出された提言でも,紙を誰が出すかの話に留まる。

民生委員・児童委員の委嘱は厚生労働大臣が行うこととなっているが、委員に欠員が生じた場合、市町村の民生委員推薦会において候補者が内定しているにもかかわらず、推薦進達から委嘱状伝達までに数ヶ月を要し、委員不在が長期間にわたっていることから、住民に対するサービスを継続して行えるよう、委員の委嘱権限を市長に移譲すべきである。


平成19年10月3日 全国市長会
「第二期地方分権改革に関する提言 〜地域住民の意思を体現する行政の実現のために〜」


また,同月の議論でも,進歩が見られない。十年一日とはこのことか。

民生委員は、地域の生活に密着している存在でありながら大臣委嘱というお墨付きがないと上手く機能しないのが現状だとすれば、矛盾があるのではないか。
→ 災害時の活躍など、民生委員の重要性は認識しており、活動しやすい環境を作る一環として、また、使命感や責任感を促すためにも、大臣委嘱は存続させたいと考えている。
○ 民生委員の委嘱に長い時間を要する問題は改善できないのか。
→ 問題になるのは欠員補充の場合だが、国においては、事務を地方厚生局に移管したこともあり、処理期間は書類が到着してから2週間程度となっている。地方とも協力して改善したい。
中核市の場合、社会福祉審議会のほか、民生委員審査専門分科会や民生委員推薦会の設置も義務付けられている。このような重複した手続を簡素化できないか。
→ その点は重複していると考えており、今後検討したい。
○ 市町村が選んだ適任者を、都道府県や地方厚生局の審査で差し戻すことはあるのか。
→ 年齢構成や男女比率などの観点からチェックしている。国では過去5年間において事例はないが、都道府県では差し替えを行うケースも数件あったと聞いている。
○ 民生委員の活動をより活発にするためには、何らかの財源措置を検討すべきではないか。
→ 現在も活動費を地方交付税で措置しているが、給与については、民生委員の中にも無償制だからこそ意義があるとの意見もある。
○ 民生委員制度の活性化について、具体的にどのような検討をするのか。
→ 地域福祉の在り方に関する研究会を立ち上げ、今年度中を目途に報告書をまとめる予定


開催日時 平成19年10月23日(火) 14:00〜17:00
第24 回 地方分権改革推進委員会 議事要旨


 我々がこのことから考えるべきことは何か。自治・分権議論に総じて欠けている市民との関係を切り結ぶこと無く,「国と地方との役所の間の話」とされてしまっているところから抜け出ていない点だ。もし,真剣に住民と向き合っているならば,「我々のマチの民生委員さんたちは『首長から民生委員を委嘱されたい』と言っている」と主張すべきだろう。実際に現場で議論を重ねれば,民生委員という仕組みを組み替えたい,という具体案になる方が,むしろ高いと予想される。
 住民とともに進まなければ,自治・分権の取組みなど足元からすくわれる。誰にとっての自治・分権なのか,という点だ。それは市民社会において,政府は小さくあらねばならない,という視点に基づくものである。
 記念の年の議論とはこんなものか,と年末を迎える。