「火天の城」を読んだよ。


 第11回(2004年)松本清張賞受賞作品の小説「火天の城」。私にとっては,「利休にたずねよ」の著者・山本兼一による小説。「利休にたずねよ」では,千利休が自害至る感情のもつれ合いと気骨がオムニバス形式でありながらもグイグイ読ませたが,さて,この「火天の城」,時系列でスルスルと読める。この読者をグイッと引き込む技量は,この著者ならではだな,と感心させられた。
 と読み始めは思ったものの,3分の2を過ぎた辺りで中だるみは生じた。主人公・岡部又右衛門とその息子・以俊との関係にフォーカスが当たり過ぎてテキスト量をとられてしまった感が残る。
 それでも築城をテーマとした意欲的な小説。ほどほどにオススメ。
 以下は,小説の中から目に留まったセリフなど。

あの子は,ずっと素直ないい子のままで来ましたからね,いまになってひねくれているんでしょ。あなたもよくおっしゃっているじゃありませんか,ひねくれない人間は弱いって。


p.152 「火天の城」 山本兼一

女人は家内の日輪ゆえ,なにがあろうと,微笑んでおれと躾けられて育ちました。
(略)
女人が笑わぬ家は,日輪の上らぬ家と教えられ,つとめて笑顔をたやさぬようにしております。


p.321 「火天の城」 山本兼一

「公家どもが梯子をはずしおった。帝に煮え湯を呑まされたわい。腑がにえくりかえる」
 光秀が,独り言を吐き捨てた。帝と公家にそそのかされて信長を弑したと言わんばかりの口ぶりだった。


p.399 「火天の城」 山本兼一


火天の城 (文春文庫)

火天の城 (文春文庫)