読書感想文「赤星鉄馬 消えた富豪」与那原 恵 (著)

 薩摩閥の一残影の物語である。薩摩の系譜から兵器の代理商となり,莫大な富を築いた赤星弥之助の長男・鉄馬。同時代人に,吉田茂白洲次郎,樺山愛輔らがおり,敗戦前に大磯に暮らしていたと言えば,明治期に英米留学したジェントルマンである人となりは伝わるのではなかろうか。
 それにしても,薩摩閥の人的資本の濃さである。政治,軍事だけではない。財界にも,幼少期からのつながりを持った人物がそれぞれに活躍しており,互いの栄達に関わりを持つ。こうした時代の転換期に得た運が地位や財を為すのだ,と改めて思わせるし,華やかなりし交遊とAさんからBさん,そしてCさんへとつながるセレブリティである。辟易しまいがちでもあるが,チャンスの前髪とは,実はこういうものでもあると,身の処し方を見直す材料にもなるのではないだろうか。
 また,グイグイと前に出ずとも人物として重用される人たちとは,かつても,そして今も人知れず活躍しているのだ,と思わずにいられない。


赤星鉄馬 消えた富豪 (単行本)

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