本当に朴訥な挨拶を聞いたよ


 職場のご縁でお通夜に出かけた。
 曹洞宗の大きなお寺で,お経がきれいな声で唱えられていた。この声にファンはいるだろうな,などと思う。故人と住職はつきあいが長いらしく(故人は長寿だった),説教は故人との思い出を多く語っていた。
 これが終わると,「ご遺族に成り代わりまして,葬儀委員長の●●よりごあいさつを」となる。お約束だ。だが,様子が違う。詰まる。引っかかる。あれ?感極まったのかな。違う,テンポが悪いだけだ。慣れてない。しかし,イライラとはしてこない。なんだろう,微笑ましくすら感じる。「この後は,遺族のみにて執り行いますので,甚だ勝手ではありますが,随時お引き取りを」のあとに,「誠にへたくそな挨拶で」と委員長が詫びている。いいんだよ,全然 O.K と腹の中で思っていると,あいさつが終わりかけたはずが「あ,一つ,忘れた。あの明日午前10時から葬儀がありますのでご列席を」と呼びかけた。うんうん,わかったよ。もう,That's right ! 十分,伝わってるよ。
 温かいお通夜だったよ。

 スルスルとゴミを縛るビニールひもを回すように言葉が出てくる挨拶は,泣かすキーワードや抑揚のツボを押さえテクニックたっぷりだったりすると,それはそれで感心するのだが,朴訥な挨拶もいいものだ。人柄が出る。お前には無理だって?あぁ,そうかも知れないね。