記憶の中のページ


 本を読んでいる最中に,そこから想起されて別な本の一節を思い出すことは誰にでもよくあることだと思うし,そうして積み重なっていく一つ一つが自分の考えを太く強くしていく。
 先日も本を読み進むうちに,はるか昔に読んだ本の記述が浮かんだ。気になるので探してみることにした。確か,この本だったような…。最初に浮かんだ本を本棚から取り出しページをめくったものの該当するページは無い。そうか,この著者ではなかったか。はて?この最初の本をよく読んでいた頃は,と。と思い起こし,当時のノートを広げる。あ〜,コレコレ。とすっかり探し当てた気になったが,残念ながら,別なページのコピーがあるだけだった。どうにも,スッキリしない。
 結局,このコピーを取ってあった本を図書館から借り出すことにした。古書扱いされているのか,もう読む者はいないのか,本は閉架図書(貴重本じゃないよ)となっており,貸出の担当者がわざわざ持ってきてくれた。
 受け取る。めくる。


 めくる。めくる。めくる。無い。


 アホである。無いのだ。いや,この本にあるという記憶が間違いだったのだ。てっきり,この本にあると思いこんでいたのだ。
 記憶の中のページは,誰がどの本に書いたかは,もう,すっかり手掛かりはない。当時の爪痕のような記憶だけが残っている。そして,私はこのページのことを時々思い出し,思い出せぬ苦さもまた,噛みしめるのだ。ソースを示せぬふわついた言及のような記憶が積もっていく,あ〜,アレアレ,ソレ,コレさコレさ,いやー,ドレだったかな,だから,ホレ,ソノ,アノ…。