自民党が敗北したのは,思想を持ち出したから


 自民党の新総裁,新役員体制が動き出し,敗北直後からの「2大政党制のため,再建を果たせ」の論調に答えようとしているのかもしれない。ただ,敗北の総括で言われる「飽きられた」「支持組織の足下が崩壊した」「選挙に勝てる『顔』頼みだった」などは,そうなんだろうけど,腑に落ちない。
 以下に,引用する自民党への記述が指摘する点を考えてみたい。

阿川 じゃあ,三島さんは思想を小説や文章に書いているだけだったら,立派な方で終わった。
養老 書くだけだったら,立派な小説家であり思想家と言われるんだけど,それを現実に応用しようとすると排除される。
阿川 おおー,なるほど。
養老 なぜかというと,日本には自民党ってのがあるでしょう。自民党は思想によいところがあれば,党を通して実現する装置ですから,自民党には思想がない。
阿川 自民党には思想がないんですか。
養老 そうですよ。共産党の政策だって具合がいいと思えば採用していいんですから。そう考えると,自民党の存在ってよくわかる。世界中にいい思想があれば,それを全部持ってきて,日本の政治に生かしちゃう。
阿川 言われてみれば融通無碍(笑)。
養老 その裏にあるのは,日本の世間に対する絶対的自信でしょう。だから「和魂洋才」。和魂があるかぎり,洋才はいくら取り入れても大丈夫なんです。


p.169 「男女の怪」養老猛司・阿川佐和子


今日,ブック・オフでたまたま,手に取った本が読みやすく,そのまま買ってきた。養老猛司も爺ちゃんなので,本で読むには対談のほうが伝わりやすい,ということか。
 進化論に関わる部分はサラリとかわし,脳と生き物についてグングン進めていくのは,いつもの養老猛司調なのだが,上の部分が言うのは,自民党は融通無碍であろうとする。その思想がなさ故に自民党=政権与党であり続けることができた,ということだ。野党に転落したというのは,前回の参議院選,今回の衆議院選の過去の2連敗をもたらした原因が,自民党が思想を持ち出した,からと言えるのではないか。日本の世間が思想を持ち出した自民党を排除した,と考えてみてはどうだろう。
 政権,政府とは,国民を食わしてナンボだ。思想をおもちゃにして振り回して,腹をすかさせてしまえば権力のよりどころを失ってしまう。さて,「保守の原点」だそうだが,うまくいくだろうか。


男女の怪 (だいわ文庫)

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