報告 西尾勝氏 講演「市町村合併を含めた基礎自治体のあり方」


 一昨日(11月15日),「市町村合併を含めた基礎自治体のあり方」と題した西尾勝氏の講演を聞いた。これの結果についてレジュメを引用し,それを補足するカタチで報告する。なお,最後にこれの報道にも言及する。

はじめに
 第29次地方制度調査会に対する諮問事項は,
 市町村合併を含む基礎自治体のあり方及び監査の機能の強化


西尾氏は冒頭,この諮問事項の監査機能には広い意味で地方議会を含むとし,地方制度調査会の議論としては,(1)市町村合併を含む基礎自治体のあり方,(2)監査の機能の強化,(3)地方議会の3つが論点になっていく,とした。

I  「平成の市町村合併」をどこまで続けるのか
 1 合併三法の期限が切れる平成22年3月で幕を引くべきである


ここで,西尾氏はこれまでの合併の推進力となったのは,国会議員及び国会であると言う。国会議員によって,「分権制度の推進」のための「分権の受け皿」づくりであり,それに伴い「自治体財政の効率化」を目指したものだった,とした。そして,合併三法の期限が切れる平成22年3月時点において,西尾氏の予想では,今後合併が進んでもせいぜい1,600代,予想を超えて進んでも1,500代ではないか,と言った。

 2 各党が掲げた1000または300自治体論は妥当性を欠く


西尾氏は,これらの数字に合理的な根拠は無い,と言い,とりわけ300は非現実的とした。つまり,これらの数字を目標とした合併のために,いつまでもダラダラと労力が地方の現場で割かれてイイわけは無い,と言う。

 3 しかし,その後のための検討課題は残る。

(1) 合併特例区地域自治区制度の改善

(2) 広域連合制度の活用

(3) 「特例町村制」の再検討


では,合併三法の期限が切れた後について,平成22年4月以降も合併の障害を排するため,議員の在任特例などの特例措置は残すべきで,これは合併することそのものを退けるものではないため。そして,現段階で課題となっている,思ったほど使われない「合併特例区地域自治区制度」については,期間が5年の期限となっている「合併特例区」を10年ないし期限を設けないものにしていくことや,合併した後の自治体において部分特例区,部分自治区の仕組みを創設し改善を要するとした。同様に,今の制度は使いにくいと言われる「広域連合」について,西尾氏自身はどう使いにくいのか「現時点では不明」としながらも,北海道において「連合自治体」と盛んに言われた時期があったが進んでいないことも含め検討課題であるとした。
 そして,平成22年4月以降に急浮上するテーマは,合併せず残った小規模町村をどうするか,なのだとし,「特例町村制」を言った。

II 都道府県から市区町村への事務権限の委譲
1 都道府県条例による事務処理特例方式の限界
  以上実績は広島県が突出,考え方としては福島県山形県が徹底


現状の「都道府県から市区町村へ」の権限委譲は,条例方式では徹底せず限界があると言う。「考え方」としての福島県山形県は件が行う業務を明確化した点を評価したが実績となっていない,とした。

2 法令改正による全国一斉の委譲を目指すべきである
土地利用に関する計画権と規制権,社会福祉事務についてはパッケージ方式の委譲が重要


西尾氏は,「土地利用」と「社会福祉」の2つのうち,とりわけ土地利用に関し欧米ではどんな小さな町村でも持っている権限であり,まちづくりに欠かせない,とした。

3 それ以外の事務権限については市区町村の人口段階規模別に委譲
  政令市,中核市特例市,準特例市,一般市,一般市町村,「特例町村」


ここで西尾氏は,すでに人口規模別となっている政令市(70万人),中核市(30万人),特例市(20万人)に加え,新たに準特例市(10万人)を打ち出し,これ以下の人口の一般市と区別した。また,これまで「西尾私案」では,「事務配分特例方式」,「特例団体」などと呼ばれ組織を見直す自治体を,今回,「特例町村」と呼んだ。

III 「特例町村制」構想の骨子
 1 小規模町村に対する事務権限の義務付けの緩和
   義務的事務の縮小であって,任意的事務に関する自治権には変更なし


西尾氏は,ここで「任意的事務に関する自治権には変更なし」を強調した。誤解されやすい部分であるので当然だと思われる。

 2 「特例町村」の所掌する事務権限の範囲
  (1) 義務付けを解除すべき事務権限
    国民健康保険介護保険の保険者としての任務
    消防・救急,し尿・ごみ処理等の共同処理事務

  (2) 残すべき事務権限
    戸籍・住民登録等の窓口事務
    育児支援,保育に関する事務
    義務教育事務


    両者の中間領域のどこに線を引くかが課題
    地方交付税算定との関係もあるので,「特例町村」の標準形は法令で定め,
    細部の出入りは都道府県と町村の協議に委ねる


ここで示された範囲で「特例町村」のイメージがずいぶんクッキリと浮かびあがる。西尾氏は,「国民健康保険介護保険の保険者」に関しては,「筆頭」と言い切り,しかも「全市町村から解除したい」と言った。共同処理事務については,一部事務組合,広域連合等で既に実施しているものであり解除とした。これら解除すべき事務と残すべき事務との境界線をどこに引くかは,国はあくまで法的にやらざるをえないため「標準形」にもとづいて定め,細部については実際の事務権限を担う都道府県と町村において個別に決めることでの対応とした。

 3 垂直補完か水平補完か
   制度上は府県による垂直とし,可能であれば,極力水平補完の仕組みを構築する

 西尾氏は,「私は垂直補完論者と呼ばれておりますが…」として話された。水平補完で行われることが望ましいわけだが,合併がこじれてできなかった町村,島嶼部など合併したくてもできなかった町村などが,隣り合う自治体と水平補完ができうるだろうか,という現実問題があるため,「府県による垂直」を制度として取り入れるべき,とした。

 4 政治・行政機構の簡素化


 この特例町村においては,議会の必置を廃止,もしくは日当だけの無報酬による運営や,教育委員会の必置,副町村長の必置などを見直すべき,とした。

 おわりに


 西尾氏は最後に,今年7月に出版した「地方分権改革」に,今日,話したことを書いた,と言った。宣伝ではあるが,言い尽くせぬ部分,これまでの「西尾私案」への無理解などを解きたいとの念があるのだろうと思う。


地方分権改革 (行政学叢書 5): 本: 西尾 勝


 さて,この講演を北海道新聞は,

西尾氏は小規模市町村を「特例町村」とし,一般的な市町村とは別扱いすべきだという持論を展開。具体的な将来像について「介護保険や消防などの業務を担うのかについても,都道府県と協議して決める。議会や教育委員会のない町村があってもいい」と述べた。


2007年(平成19年)11月16日 北海道新聞 「小規模町村権限縮小を 西尾地制調委員が講演」


と伝えた。あまりにも端折り過ぎだと思われないだろうか。第一に都道府県からの権限委譲を前提とせず,合併を選択しなかった小規模町村だけの問題としかとらえていない点。第二に「義務的事務の縮小であって,任意的事務に関する自治権には変更なし」としている点についての理解が全く欠落している点,第三に事務権限の補完については無視している点をあげることができる。
 これこそが,西尾氏がぬぐいたい誤解や誤ったメッセージだろう。


 ちなみに,朝日新聞は短信で,

平成の市町村合併は,現在の合併新法の期限が切れる2010年3月でいったん幕を引くべきだが,それで終わりではなく,広域連合制度の活用などが必要とする持論を展開した。


2007年(平成19年)11月16日 朝日新聞 「知事がシンポで『合併加速を』 道内各地の首長ら出席」


と伝えた。フォーカスぼけ過ぎである。


 さあ,道新も朝日も西尾氏の著書を読もう。


地方分権改革 (行政学叢書)

地方分権改革 (行政学叢書)