いま,何が起きているのかがワカる本


 今年の流行語は「政権交代」なのだそうだが,連日連夜,政治に湧いている日々が続いている。次から次に国民一人一人が関心を寄せるテーマを与えてくれるものだから,否が応でも政治への関心が高まるというものだ。
 私は,この変動をどう見ていいのか視座が定まらず,戦後期に本田宗一郎がしばらく遊んで暮らしていたことや白洲次郎が農家をしていたことにならい,ただただ,じっと眺めることを決め込んでいた。何せ,わからないんだから。
 最近,新聞に広告のあった新書がキツいタイトルと著者二人の名前から気になっていた。たまたま,本屋を覗いた時に,その新書に巻かれた帯に「09年8月30日,日本に革命が起こったことを国民は気づいていない」とあった。大仰なアピールだな,と思いつつ手に取ったのは,


民主主義が一度もなかった国・日本 (幻冬舎新書)

民主主義が一度もなかった国・日本 (幻冬舎新書)


である。これがヒット。今年10月10日に両著者が7時間対談したものをベースに書かれたものだが,いま,民主党政権が始まって,何が起きているのか,そして,そのことの意味が解説してくれている。聡明な方々には不要だろうが,私にとっては導き役となってくれた。
 私がこの本から得たポイントは4つだ。一つ目は,旧自民党,そして小泉政権と対比しての政権交代の意味する社会的本質として,四象限図式の横軸に権威主義国家主義)−参加主義,縦軸に市場主義−談合主義(コーポラティズム)を置いて解説されたことだった。とりわけ,日本だけが権威主義から参加主義に舵を切れていないため,「誰の目からも見えるところで,異議申し立てに開かれた協議をして,再配分を決めていくような方向でなければ−−つまり「参加主義」でなければ」(p.27〜28)いけないのに,密室談合のままであった。このことがグローバルかつ低成長の大変化の時代に,限られたリソースをめぐってとられるべき変革であったのに,である。そして,このこととは有権者が「権威主義=任せる政治」ばかりで,「参加主義=引き受ける政治」が根づいていないことによるし,政策に関心が向いてきたとはいえ,政治過程への理解が不十分である現状から民度を上げる必要性が説かれている。特に,依存的欲求=陳情から,参加的提案=ロビイングへの変化が必要だというのだ。局所的な権益欲求ではなく,全体的なガバナンス欲求として,実行するためのセットアップや設計,必要によっては政治家との取引を含んでのロビイングが,今,必要になったのだ,と。
 二つ目は,「脱・官僚」のキャッチフレーズの対象への指摘である。「役人が手練手管に長けているので政治家が手玉に取られているというのではなく,むしろ,自民党の派閥政治的な仕組みに官僚側が適応して,ある種の最適化を行った結果,役人のハンドリング能力が上がってる点にあります」(p.114)。派閥の違う政治家の間で情報共有をしないことが前提になっているため,副大臣政務官に同じ情報を上げてしまってはコンフリクトが発生してしまう。それを避けるため官僚は情報を片方だけに上げる仕組みをつくりあげてしまった,との指摘だ。このことは,議院内閣制の国政だけなのだろうか。二元代表制の地方自治体において,自治体職員による適応的最適化が生じていないだろうか。「政治家の言うことが無理かどうかを,パブリックサーバントである官僚の分際で判断することは許されない。それを判断するのはあくまで国民」(p.117)なのであるならば…,と考える。もちろん,それには,自治基本条例などに基づくガバナンスと有権者の参加主義があってのことだとは思うのだが。
 三つ目は,マニフェスト選挙の本義についての指摘だ。「選挙前の与党が実績で争い,野党がマニフェストで争う」(p.66)というものだ。宮台真司によるマスコミ批判がピークになるところだが,選挙前の与党のマニフェストに対して,それを掲げるくらいなら過去4年間に何をやっていたのだ?ということだ。では,地方自治体の首長のマニフェスト選挙はどうあるべきなのだろう。立候補者が全員新人の場合もあるのだ。この場合は,マニフェストマニフェストになるのだろうが,財源と到達目標,時期の3点セットで示せなくてマニフェストではない。現職首長が候補の場合は,実績だけでよいのか,考えてみたい。
 最後の四つ目は,ここ数日のトップニュース,COP15の関連するテーマである。いま,世界的に環境をベースにした社会システムの変更が行われている今,低炭素社会に最もはやく適応することが生き残りの条件となる,との指摘だ。単に経済面での話しではない。あらゆる政策を動員して最適化した地域をつくりあげることが求められている。11月30日に出た本だ。これはCOP15の前に出したいと外務副大臣である著者の一人が求めた。それだけの意思表明というものだ。
 本書のまえがきにあるように,「濃密」で「読み飛ばすことが難しく」「民主党政権の誕生が我々にとって持つ『真の意味』を徹底的に」書かれている。いま,小泉内閣のときと比べセンセーショナルでも「断固」「決然」でもなく,時間がかかっていると目に映る政治に,なにが起きているのかを理解する上で,必要な1冊だと思う。
 クリスマスや年末に,時間が余ってしまう方は,お手に取られてはいかがか。