「センセイの鞄」川上弘美:著を読んだよ。


 「ジジイの妄想」小説である。
 口には出せないジジイの理想の恋バナ(話)だ。奇行,虚言を繰り返して家族に迷惑をかけ出奔してしまった妻。行きつけの落ち着いた居酒屋で,昔の教え子と難度も顔を合わせる日々。丁寧で,少しに人と違ったこだわりとユニークさを持った言葉遣い。作法と知識に明るい老後の日々。そうした自分に非が無い「理想」の暮らしの恋のチャンスが広がる。
 それだけでも,美味しすぎるのに,ジジイにとって理想過ぎる最後。まったく,ジジイが読めば,「淡く切ない思いがこぼれる日々」とでも言うのだろうか。都合良すぎ,ジジイちょっとモテ過ぎ,ありえねーだろ,なわけだよ。
 まいったな,と思う。途中までのセンセイを観察するような日々,結果的に教えを乞うてしまうようなステキな時間の間までは行けなかったのか。それでは,小説にならない?そうかな,センセイが恋をしなくちゃダメなのか。そのことで,ジジイが夢見てしまうような妄想に堕してしまったと思うし,私は残念だ。
 そりゃ,ジジイの中にも永遠の中学2年生は宿り,時折,人生の忸怩たる瞬間として回顧してしまったりもするだろう。だが,センセイに恋をさせてしまう,つまり,主人公にとって,ここで描かれる先生とはペットなのだ。ちょっと,困らせられたり,かまうと反応したり。そして,自分のものとして,自分に興味関心を最大に持つ存在として。
 ジジイって,そんなもんかな。私は,もっとオモシロイ存在だと思うけどな。


センセイの鞄 (文春文庫)

センセイの鞄 (文春文庫)