実はいくぶんか前に読み終わっていたのだけど,書くタイミングを失っていた。
「幸せって言うのはな,死ぬまで走り続けることなんだぞ。」風の中で優しく目を細めて父は言った。「それに家族はどこにいてもひとつだけど,人は死ぬまでひとりだ,わかったか。」
父の助言だ。それも無茶苦茶な父の。
私なりの意訳だが,「幸せとは,死ぬまで走り続けることのできる幸せとそれへの感謝だ」「それに家族はつながりそのものを指すけど,個の強さがつながりを大事にすることになるんだ,わかるだろ」
吉本ばななの登場人物とその周辺はフワフワしていることが多く,この主人公も母親と浮遊感のある生活を続けていたが,そこにゴリゴリとした手応えのある現実がやってくる。それも恋と一緒に。
「女の子」の多くに吉本ばななが読まれるであろうことがわかる。本から視線を外してしまえば,イロカタチのある現実,ときにはグロテスクでさえある日常から,主人公のいる世界,そして主人公をめぐるトラブル(わりと登場人物の死が関わるのだが),苦しい(たぶん,きっと)を乗り越えて迎えるラスト。それが彼女たちの聞きたい話しなのだ。まったく都合良く,ムシのいい話しと切り捨ててしまうこともできるのだけど,「実は,自分は大金持ちの家の子どもで,わけあって,この家に預けられているのだけど,ある日突然,お迎えが来て…」と幼少期に思い浮かべる妄想は結構,共有されるものだから誰しもの心に響くのだろう。そうした都合のよい夢見心地の時間を過ごしたっていいじゃない,と言っているだろう。
主人公の孤独さかげんが村上春樹風なのかな。うんちくの出てこずハッピーエンドで終わるのだけど…。吉本ばななが「村上先生」と呼ぶことが頭にあるせいか,「サンクチャアリ」のいまの感想はこんなところ。
たいした冊数は読んでいるとは言えないけど,へー,男子が主人公なんだねぇ,と思いながら読み進めた。「うたかた」に対して,こっちは死が直接,出てくる。死に振り回され二人,そして「若いねー,二人!」と声をかけたくなるラスト。
淡く終わる「うたかた」と駆け抜けて終わる「サンクチュアリ」。二つがセットであることがいいのだろうな,と。

- 作者: 吉本ばなな
- 出版社/メーカー: 福武書店
- 発売日: 1991/11
- メディア: 文庫
- クリック: 1回
- この商品を含むブログ (9件) を見る