読書感想文「「線」の思考―鉄道と宗教と天皇と」原武史 (著)

 現代の「街道をゆく」である。原先生なので,副題のとおり「鉄道と宗教と天皇」が柱になるし,読者の期待もそこにある。近代の天皇巡幸地が,原先生たちの訪問先となるわけだが,行った先では,記紀の時代に遡るどころか,古墳時代までもが視野の範囲となる。また,東シナ海沿海州方面との関わり合いも考察の対象だ。
 取材チームは,当然,鉄分が多くなる。だが,どうだろうか。巡幸先での天皇の移動は,もはや,平成の世にあっては,パトカーに先導されてのトヨタ・センチュリーだったりする。鉄路を失うか減るかして,不便になった地域では,川に橋が架けられバイパス道路が整備されるなどして,道路延長も伸びた。道路特定財源が地域を繋いだ。こうした鉄分の少ない話から地域を描く研究者の登場も待ち望まれるのではないか。
 運行ダイヤ数が移動基盤を象徴した時代から,オンデマンド交通やライドシェアの時代になった。インターネットと道路網の上で,アマゾンを経由してモノが届き,ウーバーイーツで飯が届く。そうした「網」に絡めとられた僕らの生活と,コロナ禍を経て疫病と宗教をどう思考するのか,そんな論述が読めることを楽しみに待ちたい。


「線」の思考―鉄道と宗教と天皇と―

「線」の思考―鉄道と宗教と天皇と―