女というのは「暗愚で明晰で劣等感の権化で全て悪人」


 昨日「作家と絵師」と書いたエントリーに,山口瞳とドスト氏を書いた。
 「なんじゃもんじゃ」の終盤,山口瞳はドスト氏と次の掛け合いをする。

「女というのは第一に子供を生むひとでしょう。それから旦那の世話をするひとでしょう。これを同等に扱ってはいけない。そのあたりが間違っている」
「まちがっていますね」
「女というのは非常に暗い存在でしょう。暗愚でしょう。ところが,最近の女は,そのことに気がついていない。同等であって,それでいいと思いこんでいる」
「…………」
「思いこんでいる女というのは怖しい」
「ですけど,暗愚であると同時に明晰でしょう」
「そうなんだ。妙に万事につけてお見通しというところがある。そこが妙ですね」
「…………」
「女というのは劣等感の権化なんだ。なぜ劣等感を抱くかというと自分が女であるからなんだ。女は駄目だということを承知している。女は全て悪人であることを自分で知っているんです。……それからして,こんなふうになる。女の嫉妬はそこに発していると思うんです。かりに亭主が浮気をしたとする。女房が怒るのは,亭主の浮気の相手はもちろん女であって,女というのは暗愚で悪人であることを知っているからなんです。どうして,馬鹿で悪い奴に亭主が惚れるのか。相手を見なくてもわかっているんですね」
「なるほど。いや,わかったようなわからないような……」
「私にも,なにがなんだかわからない。男が女に惚れるとすれば,その暗愚なところなんですね。惚れるというより,可愛がるとすれば,その暗愚なるがゆえにですね」
「可哀想たあ惚れたってことよ,ですか」
「そうです。そうして男が結婚して安堵するのは,その明晰においてのことです。暗愚と明晰のいりまじったような」
「わかりませんね」
「私もわからない。わかっているのは,男はやっぱり結婚するだろうし,結婚して歎くだろうってことだけです」
「暗愚にして明晰。これはもしかしたら偉大な存在であるかもしれない」
「男が単純だということもはっきりしていますね」
「…………」
「多分,夫婦というものが,なにか相手を許して,しっくりゆくのはお互いが六十歳を越えてからじゃないでしょうか。そのときは,女としての女房も終わっているし,働き手としての男も終わっている」
「それまでは戦争ですね」


p.269〜270 「なんじゃもんじゃ」 山口 瞳

 増田(はてな匿名ダイアリー)で男女間の悩みがよく出てくるけど(そして,id:finalvent先生がよく回答しているけど),男・増田さんたちも知識として,この「女というのは」を知識として知っておいた方がいい,と思う。
 実は,この山口瞳の語り,私は感触としてわかるのだ。いや,こう口走ってしまう「男性」をわかるということだ。


 ちなみに,これを書いた山口瞳は,なんと43歳!いい加減,爺さんになってこう言ったのではない。