不肖ながら、私が神野先生に答えてみる:「手厚いセーフティーネットが強い国を作る」


 東京大学神野直彦教授がインタビューに答えている。

 神野 この間、うちの大学が総力を挙げて納税意識調査をやったんだ。「あなたは高福祉であれば負担が高くても応じますか。それとも、税金が安ければ、低福祉でもいいと考えますか」という問いに対して、回答者の6割は「福祉がよければ負担が高くても構わない」と答えている。この率は、年々増えているんですよ。
 ただ、中身を見てみると、やっぱり訳の分からないことになっている。男女別に見ると、男性は7割が高福祉高負担に賛成。でも、女性がダメなんだよ。女性は福祉の恩恵に浴するはずなのに、低福祉低負担を望む率が半分。それで、平均すると6割になる。
 もう1つ分からないのは、1000万円以上を高額所得者と区切って分類しているんだけど、所得が高くなればなるほど高福祉高負担に賛成、逆に低くなればなるほど低福祉低負担に賛成となる。この結果を見ると、どうなっているんだ、この国は、と思わざるを得ない。もう訳が分からない。

 —— サービスの実感を持っていない。だから、負担増ということに過剰に反応してしまう。

 神野 持ってないからだろうね。何でかな。女性も実感として、公共サービスが何も生活を支えてくれない、と思っているのかな。

 —— そういうことですよね。とにかく、今は国がやらなければならないことが山ほどありますよね、本当に。

 神野 どこから手を着けていいのか分からないけど、全部手を着けないとダメだよ。総合的な視野に立ってやらないと、本当にクラッシュするよ。冗談抜きに。


手厚いセーフティーネットが強い国を作る:NBonline(日経ビジネス オンライン)


「訳の分からない」「どうなっているんだ、この国は」「どこから手を着けていいのか分からない」とおっしゃる神野先生に,私が答えてみる。調査で「わからん」とされる結果をまとめると次のとおり。


●男性は7割が高福祉高負担に賛成。女性は低福祉低負担を望む率が半分。平均すると6割
●所得が高くなればなるほど高福祉高負担に賛成、逆に低くなればなるほど低福祉低負担に賛成


 インタビュアーは「サービスの実感」という費用対効果,顧客満足の観点から誘導しているが,私は社会参加意識の差が反映していると考える。職業,職責を通じた社会参加を通じて,世の中の「わけがわかっている」人は,こうあるべき像を描くことがたやすい。そうした社会の関わりの度合いは現状,女性よりも男性,定所得者よりも高額所得者のほうが深い。
 では,社会参加意識を高めるためにはどうすると,よいか。源泉徴収をやめて個々に申告納税するとあがるか,がっちり消費税を上げて支払いの度にいちいちため息が出るようにするとよいか,大した当てにもしてない親の財産をキレイさっぱり吸い上げる相続税がいいのか,どれも違うだろう。
 そうしたコストを意識させるよりも,世の中に関わっていることへの実感だ。それというのは,ソーシャル・キャピタルというべきコミュニティでの関わりの充実と,能動的な透明性によって生まれてくる。
 「カンケーねぇ」と社会から言われているように感じ,疎外感にあるうちは決して社会の担い手としての自覚は育たず,それゆえ納税意識も高まることは無い。私はこう思う。
 神野先生,いかがでしょう?