あなたのコーヒーに心寄せる価値はあるか?−「スターバックス コーヒー 豆と,人と,心と。」を読んだよ。


 某お茶飲料メーカーの傘下となったコーヒーチェーン会社の創業者が国会議員となったが,それはそうとして,スターバックス コーヒーとは,その存在が揺るぎないコーヒーショップとなっている。私も大ファンの一人だ。スタバのことを思うと,ああ,あの感じと,その癒される空間にうっとりする。
 そのスタバについて書かれた本があったので読んでみた。スターバックスの成り立ちについて,丁寧に書かれている。コーヒーのほんとうのうまさとその喫茶文化を愛した者たちがつくったブランドだということがよくわかる。

 ブランドの構築とは,人々との感情的つながり−−つまり「友情」−−を確立することであると,ハワードはわかっていた。商品自体はコーヒーというシンプルなものだが,単にコーヒーを飲むということを超えた体験を提供しなければならない。また,コーヒー自体も質の高いものをサービスすることで,顧客との関係をより深いものにしていかなければならない。
 彼はまた,1980年代の時点では一般的にまだ受け入られてはいなかったこと,すなわち,ブランド体験を広く伝えるにはそのブランドの従業員が最も重要な要素であることも理解していた。
 だが,スターバックスが,内部の人々−−パートナー(スターバックスは従業員のことをパートナーと呼ぶ)−−だけに注意を集中し,外部の人々−−顧客−−を無視しているということではない。従業員と顧客は相互に関係し合うからこそ,両方が大切だ。また,従業員がブランドのよさを具体的に表現しないかぎり,顧客が望むブランドを提供することはできない。さらに,人間関係が不十分であれば,従業員と顧客が反発し合い,ブランドの成長にとって欠くことのできない信頼関係を築くことができないのだ。


p.82〜83 「スターバックス コーヒー 豆と,人と,心と。」 ジョン・シモンズ著


 創業者の思いなんて,「食い扶持を稼ぎたい」だけの従業員には浸透しない。だが,従業員だけが顧客との唯一の直接のサービスの接点なのだ。

 スターバックスとそのブランド性はそこで働く人々の質に左右される。スターバックスが常に目指すのは,知的で,熱心で,そしてやる気に働きかけ,その気持ちを満足させるような労働条件を提供しなければならない。
 それだけではない。この条件は,全員に適用されなければならないのだ。利益をもらえる人とそうでない人がいると不公平になる。憤慨や嫉妬を生み出すことにもなるのである。
(略)
 一週間の勤務時間が20時間の人たちを含めたパートナーたちに健康保険を適用するということに対して,懐疑的な取締役員たちがいたものの,最終的には役員会で可決された。それはハワード・シュルツが熱意を込めて決定したことだ。そうすることが正しいのだからという単純な理由で,彼は健康保険計画を指示したのだ。
 すべての従業員が尊重されなければならない。そうすることで,従業員に忠誠心が湧いて離職率が低下し,人事採用と研修のコスト削減につながる。それは何にもまして公平であり,会社が真に尊敬と威厳を心情としているという何よりの証になるのである。
 パートタイムの従業員にも健康保険を適用すると決定したことで,スターバックスアメリカ企業の中ではきわめてまれな存在になった。1980年代後半にはこのような寛大さは一般的ではなかったのだ。誰もがウォール街の有力者たちにあこがれ,昼食とは弱虫が食べるものだった。
 企業の側でも,従業員たちのことを貴重な人材として扱うどころか,使い捨て資源のように扱っていた時代だ。そしてスターバックスは,パートタイムの従業員たちにも健康保険を提供した唯一のアメリカ企業になったのである。


p.92〜93 「スターバックス コーヒー 豆と,人と,心と。」 ジョン・シモンズ著


 全国の地方自治体では,官製ワーキングプアの常態化に手をつけられずにいることを思う。また,いつまでも,正規・非正規などと人間の価値をあげつらうような呼称の職名がまかり通っていることに,なんら手をつけられないでいることも思う。
 「スターバックス・ミッション宣言」や「ザ・ビッグ・ディッグ」など,読むべき箇所も多い。スターバックス好きなあなたも,そうじゃないあなたも,ぜひ,ご一読をお勧めする。


スターバックスコーヒー―豆と、人と、心と。 (THE BRANDING)

スターバックスコーヒー―豆と、人と、心と。 (THE BRANDING)