読書感想文「神前酔狂宴」古谷田奈月 (著)

 染まっちゃう人たちの話である。神社付属の会館に勤務する若者たちの話であるが,会社に働かせられてたはずの人たちが,仕事に意味を見出したり,職場にいる自分が職場のコミュニティに居心地よさを感じるようになる。そうした「中の人」としての自分に,自身のアイデンティティや働く自分としての主体性を得たとき,周りには,会社人間としての姿や違和感を感じさせる,あの感じが主軸だ。
 本来,ブライダル業界のスタッフの人工に過ぎなかったはずが,神社の持つ「大いなるもの」のストーリーに,つい身を委ねてしまい帰属意識を持つ者が出現することで,派遣社員の制度,職場運営,会館経営,宗教とその虚飾らが,顔を出す。
 神様は登場しない。つまりは,我々,人間側の俗世界の話なのだ。荘厳さや由緒伝来に,すがりたい,自らとを結びつけたい,という俗な願いが「仕来り」やら「決め」を生んでいるだけなのだ。大きな存在に身を寄せたい,と思う人たちの存在も無視できず,誰もが自分自身で考えられるわけじゃないんだ,と教えてくれているようでもある。


神前酔狂宴

神前酔狂宴