読書感想文「たちどまって考える」 ヤマザキマリ (著)

 人類まるごと,つんのめってコケている。コロナ禍で,コケて怪我をした程度も違えば,発した奇声も違う中,つまずきの原因となったウィルスを目にしつつ「たちどまって考える」ことを勧めている。
 あえて言おう,司馬遼太郎の名コラム「この国のかたち」,そして司馬遼にしては珍しい時事問題を扱った事事評論「風塵抄」,こられに匹敵するコラムの登場だ。とりわけ,弁証法について,司馬の言葉を思い出さずにはいられない。夏目漱石好き,福沢諭吉贔屓として,日本語を,演説をつくってきたことに引き,「言葉を大事にしない国は滅ぶ」と繰り返し述べたのが司馬だった。
 お勉強をしてしまい現代ニッポンに異邦人感を持つ意識高い系の疎外感のわけを,言葉にしてくれている。いつの頃からか,学校の体育の時間でダンスが単元となり,さらに非言語が授業となった。画面の中の文字は短く,絵文字や写真,動画の共有に忙しく,言葉を豊かにできずいる社会。しかし,それは,俳句や詩歌,茶道など,ハイコンテクスト社会であるからこそ,省略し,それを味わうものに自ずと解釈がわかるよね?という日本社会でもある。
 感情の高ぶりを排し,抑制の効いた文章を連ね始まる,この一冊。ヤマザキマリが後に思想する人としての道を歩んだ,きっかけ本と呼ばれることになるのかもしれない。