読書感想文「我が友、スミス」石田 夏穂 (著)

 筋肉実況中継・ジェンダー内面葛藤こじらせ小説である。
 目指した場所が自由をもたらしてくれると意気込んだはずなのに,さらに一歩踏み込んでしまったそこは「クラシック」な価値観に支配されていた。でも,目標期限を決め,そこまでは頑張ることにしたのだ。期待に応えるべく。
 筋肉は裏切らない。だが,筋肉を見せるとき,筋肉そのものとしてだけ見られるわけじゃない。筋肉の付いた男,筋肉の付いた女となる。期待されるのは,男としての筋肉であり,女としての筋肉だ。まして,コンテストとして順位がつくとき,審査対象として消費されるわけだ。
 世のオジさん,オバさんたちは知っている。動機から外れちゃいけないんだ。自由を目指したんじゃなかったのかい。周りに流されず,自分のやりたいことに忠実になって成果を得たかったんじゃないのかい。苦しくなるだけなんだよ,憧れや雰囲気に身を任せちゃうと,気づけば全然違うところへ着いちゃうんだよ。
 社会って,世間って,世の中って,面倒くさい!果たしてそうか。つい,仲間内の評価やウケが嬉しくて,認知や承認されることが楽しくて,誘惑に絡め取られたのは自分じゃないか。生きづらさ,息苦しさはあるよね。だけど,自分に都合のいいように流されて生きるオジさんオバさんたちは,生きやすかったりするんだよ。どうする?