読書感想文「近江から日本史を読み直す」今谷 明(著)

 近江を考えることは一つの厄介である。
 琵琶湖を囲むすべての道が街道なのだ。東海道中山道,北国街道,若狭街道,塩津街道。京の都に入る前に湖水を横目に,もしくは湖水の上を経由して一度,この地を行き来するのだ。当然,人々は多様で一筋縄ではいかない。それ故,一々,日本史上のトピックがいつの時代にもこの地にはある。やれやれ,厄介だ。
 なにせ,古代の世の継体天皇から始まるのだ。渡来人が政権で重要な地位を占める時代である。都とはやや距離を置きながら,いざという時に都に向かうことができるぞ、と示威的な姿を見せつけることができる。近江とは,この後も都を睨む存在である。土地は豊かであり,若狭や三国から都までは,絶対的な位置は離れているが陸上移動する距離は僅かである。都に近いくせに人やモノが行き来し,土地に記憶が蓄積される蓄電池のような土地だ。
 近江という日本史のウラ番長。これからの時代を睨む上でも近江からの視点で日本を俯瞰してみてもイイのかもしれない。