読書感想文「チーム・オルタナティブの冒険」宇野 常寛 (著)

 子ども向けのテレビ特撮ヒーロー番組の放送時間は、なぜ30分なのか。
 子どもの集中力の持続時間の長さでもあるように思うが、実は違うだろう。一話で子どもをテレビの前に釘付けさせ続ける制作者側の力量の問題でもあるし、実は、視聴者である子どもは保護者たちの都合で案外と忙しく、画面の前に釘付けにさせてもらえる定常的な時間は30分程度なのだ。
 この一話30分間の世界で捨象されてしまった話しの前提や日常のあれやこれやのディテールを大人相手に全開にした一冊だ。よくもまぁ、自意識まみれの主人公を創作したものだ。「できる子」の世界を描くために小説という表現手法と文字情報空間の媒体を使ったからこそ為せるものであり、これが映像だと脱落した者も多かったはずだ。それと同時に「大人をバカにし、新しいことや他人と違うことをやりたがる」という痛いほどの凡庸さを惜しげも無く表現してみせたことは、物語のラストスパートに大きく寄与した。
 SF・特撮空間を通じて自意識やコンプレックスを昇華させるのは、日本だけのお家芸ではなく、一連のマーベルやハリウッド作品にも存在する。この場合の自意識とは、評価の客体である自分を意識することだ。特撮の基礎知識は要求されるが、コミュニケーションそのものの客観視とAI時代のマルチな視点の持ち方について、じわじわと読後感が広がる一冊だ。
 ところで、私には夢がある。宇野とNHK魔改造の夜」の評論をしたいのだ。なぜ、勝つ企業があり、そこがとった戦略と実践を解くのだ。ぜひ。