読書感想文「この世にたやすい仕事はない」津村 記久子 (著)

 仕事と居場所と感情の話しだ。
 働くことに伴って少なからず、感情のやり取りが発生する。それは達成感や感謝を向けられることといった正の面もあるし、ただただ疲弊したり夢中になってしまうあまり前後が見えなくなる負の面もある。
 もっとも、煩わしいだけの人間関係もあるし、事業所として軌道に乗らず廃業してしまうことでその職場が無くなることだってある。
 主人公の得た5つの職場で過ごした時間は、社会復帰のためのモラトリアムでありリスタート前に自分を正視するための時間であった。ただただ失業保険切れ後の身の処し方をネガティブに窓口で吐露しかできないところからスタートしたが、妙な経験や手応え、人間関係を築いていった。
 人生というのは、瓢簞から駒が出たり、人間万事塞翁が馬だったりする。わかるようでいてわからないものだ。だからこそ、恐ろしさや摩訶不思議さなファンタジーを主人公とともにトレースすることで、我々が拘泥している目の前の優柔不断で判断停止しているものから、リアルで確かさのあるものへと向かっていけ、ということなのだろう。