読書感想文「硫黄島上陸 友軍ハ地下ニ在リ」酒井 聡平 (著)

 気骨と使命感を帯びた記者の歩みだ。まるで講談ものに出てくる仇討ちの浪人のようではないか。
 物事を「終わったことにしたい」「面倒なことは避けたい」という勢力は確実に存在する。そのことを指摘したり、迂闊に本質を追求すると逆上したり逆襲を受けたりするので注意が必要だ。人生どこで逆恨みされるかわからず、また、どこに落とし穴を掘られているかわからない。くわばらくわばらである。
 戦死者の遺骨収集・帰還が、そのことに人生を傾ける人でなければ成し遂げられない個人の人生を磨滅する取り組みとなってしまっている。未踏峰の登山や人類がたどり着けていない地点への探検じゃないんだ、そんな負担を遺族や遺児に負わせていいわけはない。
 これは市民が自らの手で国家を作っていないことに尽きるのではないか。国家として当たり前に記録を残すことや、国家としての戦いに命を落とした者へ報い、責任を負うことが、どうにもだらしなく、できていないのは、我々が当然に歴史を大事にしたり、国家の担い手として自覚のもと、主権者として政府に要求してこないことが原因じゃないか。「戦争をすることにしたのは僕らじゃないです。関係ないです」と歴史の文脈から語るべきことへ主体性・当事者性が欠けているのではないか。
 謎解きでも陰謀論でもない。市民として「ちゃんとしよーぜ」と語ることである。