あまりにも古すぎる「コンピューター」観と住基ネットと社会保障カード


 コンピューターのもっともコンピューターらしい使い方とは,データベースソフトである。とはよく言ったもので,情報を使い回し定型的に処理していくことが(実は)多い日常において利便性が高いばかりでなく,履歴の管理も行うことができ有意なことは所々の事例が示すとおりで,業務合理化の基本はデータベースソフトによるオフィス処理であるとすらいえる。ところが,師承と職人の国である我が日本では,絶えぬ,創意工夫と斬新さを好む故に無粋な合理性に敬意が払われるわけはなく,定型処理が必ずしも良しとされない。
 騒々しい世間だが,次のニュースが流れている。

 年金や医療など社会保障に関する個人情報を一元管理する政府の「社会保障カード」構想について、厚生労働省が、納税情報など幅広い個人情報を盛り込む「国民総背番号制」など4案で検討を進めていることが11日、分かった。今月下旬に発足する有識者による検討会で具体的な検討に入るが、総背番号制が選択されれば、個人情報の保護をめぐり賛否両論がおこるのは必至で、年内に出される結論が注目を集めそうだ。


社会保障カード本格検討へ 「総背番号制」も視野 厚労省が4案想定 - 政治 北海道新聞


 とあるとおり,社会保障カードの導入が進められようとしている。さすがに,「プライバシー」と「安全性」を掲げた反対派も,年金問題の前にあっては声を大きくしようにも戦法に手詰まり感があるように見える。それこそ,住基ネットの際に華々しく成果をあげたネットワークへの侵入問題(「ウィンドウズ」の安全性や「ファイヤーウォール」の突破について,随分取り上げられたっけ)も今となっては取って付けたような話しで,反対をまっ先に表明した矢祭町も漏洩した際の個人情報保護法の整備とセットではなかったことを問題としていたのであって,現時点で問題は何であったのかと考えさせられる。
 池田信夫氏は,彼のブログエントリーのコメントで次のとおり言う。

IDを統一することと情報の内容が漏洩することは無関係です。あなたは多くのウェブサイトで同じIDを使っていると思いますが、そのIDがあれば、第三者がすべてのサイトにあるあなたの個人情報を「芋づる式」に取得できるんですかね。問題はサイトごとの情報管理であって、IDではありません。

IDをつける目的は、納税と年金などの給付です。これは全国民に強制的につけないと、所得や納付の名寄せができないからです。それ以外については、全国民に一意の背番号は必要ありません。だから住基ネットなんてナンセンスなのです。


池田信夫 blog 「社会保障番号」は必要か


問題点は,むしろ,国民ひとりに一つの番号をつける「ナショナルID」というのは,固有のID番号(ユニークID)ということであり,ユニークIDのもとに各データベースが動く,ということを理解できていないことなのだ。想起されることの多い映画「1984」の「ビッグブラザー」のもとの情報の一元管理ではないわけだが,これが認識できていないこと,いや,少し踏み込もう,情報通信技術者が専門家としての積極的かつわかりやすく発信してこなかったこと,発信していても,それをマスメディアや指導者が十分取り上げてこなかったことの問題なのだ。
 もう一度,池田氏のブログエントリーのコメントを引用する。

彼らが1970年代のコンピュータを想定しているということです。行政が大型機に国民の情報をすべて集中し、「危険分子」を公安が監視する、と考えているのです。

実際には、今グーグルで「池田信夫」を検索すれば、出てくるのは138万件。とても集中管理できないほど膨大なプライバシーが、世界中に分散しているわけです。その中で行政の管理する情報なんてわずかなもので、しかもデータ自体は各官庁でバラバラに管理しているので、背番号を一元化しても個人の全情報がもれることはありえない。

せめてインデックスぐらい統一しないと、社保庁厚労省のようなでたらめは是正できない。「監視社会」の恐怖を煽っているのは、税金を食い物にする連中の手先です。


池田信夫 blog 「社会保障番号」は必要か


ここで,池田氏が言うような'70年代のようなコンピューター観からの脱却を図ることが肝要だし,冒頭で述べたような(リレーショナル)データベースの概念が理解できていないと「わかる」のは難しいのかもしれない。
 しかしながら,番号を元にした情報基盤が無いが故に隠蔽されている不正な利得が,社会の公正さ公平さを妨げていることを問題視した方がいい。

 わが国には幾つかのタブーが存在する。その一つが「納税者番号制度」である。1983年に、グリーンカードと呼ばれた納税者番号制度の導入が土壇場になって打ち切られて以来、納税者番号制度が表立って議論されることはなかったと言ってよい。タブーになってしまったのは「納税者番号は、国民総背番号の導入につながり、国民のプライバシーが侵害される」と指摘する声があるからだ。


国民総背番号制度と情報システムを議論する:ITpro


と島田 直貴氏が言うようなタブーになっていてはいけないし,その原因は我々の古くさいコンピューター観にあるのだろう。このことは笑い事ではない。

 米ブラウン大学電子政府ランキングが最近発表された。私はそれを見て大変なショックを受けた。同時に、日頃から「美しい国」の電子政府に疑問を抱いている私は「やはりね」という思いを募らせた。

 昨年は8位であった日本のランクが、何と40位に落ちたのだ。39位が北朝鮮というのもショックだった。日本の電子政府北朝鮮よりも劣っているらしい。ちなみにランキング1位は昨年に引き続き韓国、2位、3位はシンガポール、台湾と、アジア勢が上位を占める。

 4位が米国、5位が英国、6位がカナダといったあたりは、いつもの顔ぶれである。


北朝鮮より劣る? 日本の電子政府 (奥井規晶の「美しい日本の和魂洋才」):NBonline(日経ビジネス オンライン)


 折角なので,外国の事例をもう一つ。

スウェーデンでは、半世紀以上前から個人番号を記した社会保障カードが導入されている。スウェーデンでは年金や医療、介護サービス児童手当などを受ける場合には必ずこのカードが必要になる。日本では年金記録の未記録の間違いがおきたが、この個人を特定する番号を常に確認する事により、他人との間違いなど絶対に起きないのである。

 セキュリティーの問題についても、このカードとは別の電子IDが用意されている。このカードを用いないと個人情報の流出はあり得ないという。


秀人のひとりごと - 社会保障カード


コンピューター不信も大概にせんとあかん,という話しである。